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GILIV-LT01. Abandoned ground

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「へへへへ〜! どういたしまして!」
 褒められて気を良くしたユニーが、ニコニコと笑い、つられる様にオーカーが微笑む。
 ユニーを抱きしめたまま、アンバーへ向き直った。
「ねえ、もう外も暗いし、今日は泊まってってもらえば? この近くには、他に村もないもの」
「ああ、そのつもりだぜ」
「じゃあ僕、お部屋の用意してくる!」
「わあい! おフトンおフトン〜。ユニもてつだうぞー!」
「うん、終わったら一緒に遊ぼう、ユニ!」
「あ、いや、俺達は」
 きゃっきゃと廊下へと走ってゆく二人を見送るアンバーに、ジャウロが申し訳なさそうに声をかけた。
 くるりと振り向き、アンバーが笑う。
「礼くらいさせろよ、……っても夕飯と寝床くらいしか用意できねーけどな」
「けど……って!」
 尚も渋るジャウロの背を、ノアが軽く叩き、横目でにらむ。
「せっかくこう言ってくれてるんだ。わざわざ断る理由もないだろう」
「……わかった。ユニーも乗り気だし、好意に甘えさせてもらうよ。アンバー」
 ありがとう、と付け加え、ジャウロが控えめに微笑んだ。
先程大蜘蛛の禍を倒した時とは別人みたいだ、とアンバーは密かに思う。戦いとは無縁そうに見えた。
「そういや自己紹介がまだだったな。俺はアンバー、向こうの弟はオーカー。兄弟二人でここで暮らしてる。
……お客さんなんかめったに来ないからさ、賑やかな方が弟も喜ぶし、遠慮せず泊まってけよ」
 廊下の向こうから楽しげな笑い声が聞こえた。どうやら部屋の用意の前に遊ぶことにしたらしい。
「子族のジャウロだ。宜しく、アンバー」
 バンテージを巻いた右手が差し出される。握手は、思ったより力強い。
「彼女は牙族のノア。隣の彼が、ノアの守耶で、セキ」
 ノアが僅かに目を細め、短く「ノアだ」とだけ呟いた。セキと呼ばれた守耶の少年が、軽く会釈する。 
「オーカーと一緒に遊んでいるのが、俺の守耶でユニー。四人で、中央区に向かう旅をしているんだ」
「中央区……」
 途端、渋い顔になったアンバーだったが、ぱっと表情を変え、台所へと向かっていく。
「ずいぶん長旅じゃないか。それなら、今日はゆっくり休んでいけよ!」
(中央区、か……)
 気づかれぬよう、後ろを向いたまま、アンバーは表情を歪め、払うように軽く頭を振った。


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「中央まで行って何をするつもりなんだ?」
 居間中に、スープの良い匂いが漂い、オーカーの膝の上でユニーが短く歓声を上げた。
いつもならジャウロの肩が彼女の定位置だったが、今夜は新しく出来た友人にべったりのようで、
軽さがなんとなく物寂しい左肩に触れつつ、ジャウロはアンバーに言葉を返す。
「中央で何をする、という訳ではないんだ。ただ、最終地点が中央なだけで」
「あんた達って調査団か何かなのか?」
「そうだな。世界の異変を調べてる。その結果を、中央まで伝えに行くんだ」
「ふーん、この三禍の時期にねえ……」
 スープを器に入れながら、関心と呆れの半々でアンバーが応えを返した。途中で、ふと疑問に顔を上げる。
「ってことはあんた達、404地区から来たのか?」
 この大陸の居住区は、全部で五つのサーバーと呼ばれる地域と、管理中枢のある中央区で治められている。
因みに今アンバー達が住む地域は2(ディー)サーバーで、隣に3(トリ)サーバー、中央に近づくにつれ、
4、5と数字が増えてゆく。404地区とは、中央からは最も遠く、祖の民達が多くを占める土地「だった」場所だ。
「……ああ」
 ジャウロが、静かに頷き、セキが言葉を繋げる。
「正確には1(モノ)サーバー。404は三禍以来言われてるただのあだ名です」
「知ってるよ、でも、今は404の方がしっくり来る場所だろ」
 セキにスープを入れた器を返しつつ、アンバーが言葉を続ける。404──ノットファウンド地区。
史上最悪の被害を出した、民と禍の争い「三禍の戦い」の終わり、正体不明の黒い光が1サーバーを覆い、
サーバー全体を洪水のように消し去った。
「フラスコの爆発」と名づけられたそれ以降、無人の荒野となった1サーバーは今も進入禁止区域となり、
誰もいない土地、404地区と呼ばれている。
「1サーバーの生き残りは皆、別のサーバーに避難してるって聞いたぜ」
「さっきジャウロが言っただろう、異変を調べていると。別行動なんだ」
 器を受け取り、ノアがそう返す。
「ふーん。……アンタたちは、1サーバーの民なのか?」
「そうだ。僕の村も、ジャウロの村も1の一番北近くにあった」
 行儀悪く、器を持ってスープを飲み干すユニーの後頭部を軽く叩きつつ、ノアが頷いた。
きーきーとユニーが威嚇し、その様子にオーカーが苦笑いする。
「……三禍で一番被害が出た地域だな」
 アンバーが苦い表情で呟く。三禍の時、最初禍の魔物たちは北の険しい山脈を越えやってきた。
「フラスコの爆発」も、1サーバー北が中心地と言われている。404の中でも本当に、何も残らなかった場所。
「……ああ」
 ジャウロが目を伏せる。自分の席へ座り、アンバーが、天井を仰ぎ言葉を続けた。
「あれってさ、三禍の戦いを始めた子族の長が指揮を失敗したせいで、あんな被害になっちゃったんだろ?
魔方陣の故障とか、中央の双子の姫の片方が攫われたりとかさ。
迎え撃とうとして逆にやられちゃったのは、全部そいつのせいだって、皆言ってる。
……きっとそいつすっげーモーロクジジイで、全然何も考えてなかったんだよ! だから失敗したんだ」
「そうだな、正式に、中央からの公表でもそうなっている。その長は一族からは追放され、行方知れずらしいが」
 ノアがそう続け、正面に座るジャウロへ僅かに視線を向けた。ジャウロはただ黙って、テーブルを見つめている。
「でも追放されただけだろ。命があるんならいいさ。そんなのに振り回されて死んじまった奴らは、いー迷惑だぜ!」
 乱暴にパンを千切りながら、アンバーが言葉を続ける。
「そうだな。生きているなら、死んだように生きてしまわない限りは、進むことはできる」
 だが楽ではない。そうノアが言えば、
「そんなの当たり前だ。生きてるかぎり戦わなきゃならない。だから、俺は強くなるんだ」
 剣をそうするように、アンバーが手に持ったスプーンを前に突き出し、言い切った。
 ノアはがそんな様子に苦笑し、言葉を返す。
「戦うということは、思うより辛い。負けても失っても、それでも進まなければいけない」
「なんだよ、負けたら終わりじゃん。だから強くなるんだろ?」
 わからない、というようにアンバーが首をかしげ、ノアが沈黙したことで会話は一度途切れた。
 さっきから黙りこくったままのジャウロの元へ、オーカーの膝からユニーがテーブルを越え、ひしと抱きつく。
ジャウロがふと顔を上げ、さびしげに笑ってその頭をなでた。
 しばらくの沈黙の後、アンバーがポツリと言葉を漏らす。
「あの戦いがなけりゃ、俺達の父さんも母さんも死ななかった」
 その言葉に、はっとジャウロが顔を上げアンバーを見た。スプーンを握り締め、アンバーがテーブルを睨む。
「404地区。俺達の両親も、そこに居たんだ。医療班のボランティアでさ、何か力になれれば、なんて言って。