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Who cares ?

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#03 気付かぬほど愚かではない





 止まれと強く命じても止まない震えは突きつけられた今更どうしようもない現実によって止まった。その代わりに今度言うことをきかなくなったのは涙腺。
 その変化に臨也がうろたえていると、一瞬の間に臨也は更にベッドに深く沈まされた。
 何やら静雄の中の何かを自分は切ってしまったらしい。臨也は静雄に押し倒され、更には両腕を押さえつけられて跨られた。ひくりと喉が引き攣れて、臨也は押さえつけられた両腕の代わりに足でもがく。
「イヤだ、嫌い、嫌いだよシズちゃんなんてっ!」
「っ、手前……!」
「なんだよ、俺のことなんていつも嫌ってるじゃないか!殺す殺すっていうぐらい俺の事が嫌いなんだろっ、だったらさっさと離して退いてよ!帰る!」
 ぼろぼろと相変わらず涙は零れ続ける。両腕を拘束されてしまったが為に、零れる涙を臨也は拭うことはできなかった。それでも滲んだ世界できっと臨也は静雄を睨む。

 もう、帰してほしかった。臨也はこれ以上惨めになどなりたくなかった。
 気付いてしまったのだ。最悪と静雄に告げた時点で、臨也は全てに気付いてしまった。
 否、気付かざるを得なかった。突きつけられたどうしようもない現実はそう易々とひた隠して逃げてきた真実を見逃してはくれなかった。
 臨也には、静雄が震える自分をみてどう思ったのかは分からない。だが、恐らくこの震えを恐怖からと認識していたのではないだろうか、と思う。
 確かにそれもあった。しかし、違う。原因全てがそれに当てはまっていた訳ではなかった。さまざまな感情が複雑に入り乱れ交錯し絡み合ってしまったが為に、尚更臨也の反応の原因を解読困難にしてしまった。
 始め、臨也はこの意図していない意識の抑制の利かない震えに対して、覚えていない間に静雄にされたことに対する後遺症だと思った。此処まで酷く感情をコントロールできないのであれば、例え自分の記憶になくても躯に記憶が残ってしまっているのだ。それに対して覚えていないという自分の中の不安要素が拍車を掛けた、と。そう憶測を立てた。だから、触られては益々堪らないと、臨也は静雄が触れてくることを拒んだ。
 では、仮に臨也の震えは躯が覚えてしまったことが原因だとして、それとはまた別に、目を覚ました時に隣にいたのが静雄でなければ臨也はどうなっていたのだろうか。隣にいたのが静雄でいいのか悪いのか。それははっきりしないが、得体のしれない面識もない人間がいるよりはずっといいかもしれない。それに元より犬猿の仲だ。罵りあったとしても日常に組み込まれて、よくわからない厄介事には巻き込まれない。記憶にないところでもって強請られたりなどしない。静雄がそんなことはしないと分かっているから、その点臨也は安心できた。
 ただ、その様な事を思った後に、何をしたのかと、と勘付いているのにも関わらず静雄に尋ねてしまったのはどうしてか臨也にもわからなかった。
 しかし、結果として静雄から渡された引導で臨也は気付いてしまった。
 認めたくない、と思ってはいたが、それは何も覚えていられなかった自分を、許せなかったのだ。
 だからそれさえもひっくるめた涙と静雄を突放すような言葉が零れた。それは恐怖なのかはたまた後悔なのか。どちらが勝っているとも分からない。いずれにせよ、静雄ほど此処まで臨也の精神状態を引っかき回す者もそうそういないだろう。
 臨也と静雄がこうして肉体関係を結ぶのは初めてだった。お互いのそれまでの経験など今更どうでもいいが、二人の間ではなかった。これで高校時代だったら若気の至りで片付けられたのだろうか。いや、今回だって酔った勢いで片付ければいいのだろうか?
 ふつふつと湧きあがった腹立たしさは実は静雄に対してではなかったのだ。結局のところ、自分に腹を立てていた。そのこともまた臨也にショックを与えた。どうしてそんなことを思わなければならないのか、感じなければならないのか、と平常心を保てない自己嫌悪に陥る。
 だがしかし、ここまできて今更無視することなどできやしなかった。この、静雄に対する憎悪感と何やら酷く紙一重な、別の感情を持っていることに。無関心の対義語である、この感情に。
 自然と臨也は静雄を罵った。気付けば罵る言葉が口からぽろぽろと零れていった。虚勢以外の何物でもない。そして今やそれは涙へと摺り替わる。今更自覚して、でもまだ無意識の時点で何か口走ってはいないだろうか。それが、心配になったから。


「臨也」
 名前など呼んでほしくなかった。益々逃れられなくなってしまうではないか。真っ直ぐに見下ろしてくる静雄に、せめて自分の視界の外に追い出そうと臨也は顔を背けた。押さえつけられていた片腕が目に入り、静雄の無骨な手に力が籠るのが分かった。
 痛い、と訴える気さえ起らなかった。こんな感情を抱えてしまい、なおかつこんな形で突きつけられてしまったことが惨めでならなかった。
 静雄はどう臨也に声を掛ければいいのか戸惑っているようだった。そうだ、彼は己ほど口達者では無い。臨也に対しての罵りは慣れたものだろうが、臨也に対しての慰めの言葉を掛けることなど、そう滅多にあるものではない。
 自然とどちらも言葉を発しなかった。ただただ、臨也の我慢しても隠しきれなかった嗚咽が物悲しく部屋中の空気に溶けた。





作品名:Who cares ? 作家名:佐和棗