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小鳥遊 天音
小鳥遊 天音
novelistID. 55176
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この先も、ずっと。

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風が暖かくなった。肩より少し上で揃えた長髪を丁寧にカチューシャで留めてきた筈なのに春風によって悪戯された。春の午後は優しい日差しが降り注ぐ。
今日は箱根学園の卒業式だ。
もうこれで箱根学園に来ることもないのか。
俺は手にしていた沢山の写真を見る。其処には卒業証書の筒を持ち泣き腫らしぐちゃぐちゃになり笑顔でいる仲間達が写っている。名残惜しくいつまでも門を出れなかった学校。俺の色んな三年間が詰まっている。
午後の謝恩会を終え、皆それぞれの帰路に着く。
「じゃあな、尽八。春休みも会うだろ?一緒にロード乗ろうぜ」
隼人がまだ潤んでいる瞳を細め、いつもの必ず仕留める合図をした。
「東堂さん卒業おめでとう!元気でね!次は絶対にオレが勝ちますから」
1番可愛がり沢山勝負をしてきた後輩、真波の目も少し赤かった。本当に可愛い後輩だ、なんて言ってやらないが微笑み、真波の頭をくしゃりと撫でる。真波は堪えていたのだろうか。撫でると青い澄んだ瞳から涙を流し抱きついてきた。
「東堂さん、卒業おめでとうございます。また一緒に山登ましょう…って、こら真波。いい加減東堂さんから離れろ!」
黒田はうるんだ瞳で俺に抱きつく真波を引き剥がし、すみません、と呆れながら俺に頭を下げる。
「東堂、お前はどこに行っても…強い!」
フクの目も腫れていた。普段感情が表に出ないから驚いた。
「東堂さん、本当に2年間お世話になりました!」
泉田は規則正しい礼をし、真っ赤な目で微笑んだ。少し髪の毛が伸びたな、なんて思いながら有難う、とお礼を言う。
「そういえば靖友は、」
隼人が言い掛けたと同時に俺の携帯の着信音が鳴る。
こんな時に誰だ、そう思いながらロックを解除し、画面も見ずに出る。
『クハッ…東堂、卒業おめでとッショ』
唯一無二のライバル、巻ちゃんからの貴重な電話だった。
「巻ちゃん!ありがとう!」
巻ちゃんと通話をしながら皆に一瞥し、手を振り去る。
夕暮れの空をそっと見上げた。
日が長くなったな。
季節はだんだんと過ぎていくんだ。


3年前の春。
変な頭をしながら途中入部してきたのがあいつだった。
荒北靖友。
その見た目から、部の皆から恐れられ声をかける者が少なく、流石に可哀想だと思い声をかけた。しかし返ってきた言葉は、
「だっせェカチューシャだな」
カチンときた俺は、荒北とっ初っ端から大げんかをした。
そんな関係が続き、学校全体に俺たちは喧嘩夫婦と呼ばれ、俺は何となく嬉しかった。

そんなある日、せわしなく過ぎる日々の中、俺は少々体調を崩していた。しかし態度に出さなければ大丈夫だろう、と考え授業にも部活にも顔を出した。部活終了後、少し山を登り、皆より遅れて部室に入るとそこにいたのは、自主練と言う名のローラーをする荒北のみだった。別に話かける理由も無く帰宅の準備をしようとロッカーの鍵を開けると荒北が声をかけてきた。
「おい東堂ォ、お前体調悪いだろ」
「そんなことはない。他人の体調を決めつけるな」
「…うっせェ、そこのベンチ座れよ」
「は?」
「良いからァ」
荒北は自転車から降りため息まじりに近寄って来る。俺は疑問を抱えながらも近くのベンチに腰を降ろす。すると荒北も俺の隣に腰を降ろし膝の上手でぽんぽん、と叩く。
「何だ」
「ここに頭おけって言ってんのォ」
そう言うと荒北は俺の肩を自分の方に寄せ、膝の上に俺の頭を乗せた。いきなりの出来事に思考が追いつかなく少々戸惑っていると「目開けてねェで休んでろって」という声と共に俺の視界は暗くなり、不思議と身体が軽くなり俺の意識は遠退いた。

「どォ?少しは楽になったァ?」
それから20分程経っただろうか。ふと、いつもとは違う優しい荒北の声で我に返った。俺は起き上がり姿勢を直す。
「あっ…俺寝ていたのか…?」
「おう、ぐっすりな」
「そうか…すまんね」
「ッセ、てめェは無理しすぎなんだよバァカチャン!たまにはゆっくり休めって」
な?、と荒北は今まで見たことの無い笑顔で俺の髪をくしゃりと撫でた。
荒北はこんな優しい表情はするのか。
そう思いながら、撫でられた髪の毛を触ると心が温かくなるのが分かる。この時から優しい笑顔の荒北が忘れられなく、気が付けば俺は毎日荒北のことを目で追っていた。
体育祭、文化祭、修学旅行、クリスマス。学校行事を繰り広げる中でいつも側に荒北がいた。そしていつの間にか荒北の特別になりたがる自分がいた。
荒北の優しい所が好き。
荒北の世話好きな所が好き。
荒北の努力家な所が好き。
3年過ぎていく内に俺はこんなにも荒北のことが好きになっていた。


卒業式間近の朝。
少しずつ暖かくなってきた学校へと続く寮の道で荒北に会った。
「おはよう、荒北」
俺は朝から嬉しくなり、気怠けに歩く荒北に小走りで近付く。
「ハヨォ、朝から元気だねェ…」
大きなあくびをし、荒北は目を擦る。そんな姿が愛おしくて俺はついくすり、と笑う。笑うんじゃねェヨなんて小突かれても嫌な気分はしなかった。
「あー…もう卒業だねェ」
「…そうだな」
心の隅っこがきゅんと痛くなった。荒北とも離れ離れになってしまう。俺は荒北に支えられてきた。3年間、こうして何もかも頑張って来れたのは荒北がいたからだ。もうすぐ卒業。新しい世界へと進んでいく。不安もたくさんあるが俺は一人じゃない。目を閉じ、過去となる思い出を振り返れば、荒北の優しい笑顔が浮かんでくる。つまづいたり、立ち止まったりした時荒北のその笑顔に励まされて、強くなれたのだ。荒北が好き。荒北が大好き。荒北がいるから強くなれた。だから…荒北にとって俺もそうでありたい。
いつも乱暴だが、時たま見せるの淋しそうな横顔を見る度に俺はそんな荒北の力になりたいと思っていた。だが俺は荒北から見ればただのチームメイト。しかも男同士だ。
なぁ、荒北。俺はお前から見てどう見えているのだ?
もしも、俺が男じゃなく女だったら…告白出来たのだろうか。
「東堂ォ?」
ふと名前を呼ばれて体を揺らす。隣に心配そうな表情をする荒北がいた。
「どうした?具合悪ィの?」
「い、いや…」
「卒業を控えて寂しくなっちゃったァ?」
くしゃり、とあの日のように頭を撫でてくる荒北。一気に顔が熱くなるのを感じる。
あぁ、本当に荒北の事が大好きだ…。
「いつもの自信どこ行っちゃったのォ?お前はどこに行っても、何をしても最後は完璧に仕上がんだろォ?」
何も答えない俺の顔を覗き込み、心配そうに荒北が問う。
こいつは本当に優しい。
しかし荒北、俺がお前に告白したら完璧に仕上がるのか…?
そう考えながらもすぐに切り替え、「そうだな、俺は山神だからな」と荒北に微笑む。「やっぱうぜぇ」と返されたがそれがとても嬉しかった。
ニヤけそうになる頬をどうにか抑えていると見かけたことない女生徒二人が俺達に近付いてきた。一人は俺のファンクラブの子だろう。馴染みのある顔だ。
「東堂様、おはようございます!」
「あぁ、おはよう」
いつものように笑顔を振りまく。隣で荒北の溜息が聞こえたがサービスなのだから仕方がない。俺の女子ファンが必死に俺に話しかける中、もう一人の女子生徒は俯き、何か言いたげな顔をして俺を__否、荒北を見つめた。
そして、
「私、荒北さんの事…」