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小鳥遊 天音
小鳥遊 天音
novelistID. 55176
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この先も、ずっと。

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俺はその場から逃げ出してしまった。あの子の荒北を見る目は恋している目だった。そうだ、あれが普通なのだ。俺がおかしい。男同士など決して許されない事。
「…仕方ない事だ」
辞めよう。気持ちを伝えるのを…。


結局,あの日は何も言えず、余計な事を考えて逃げ出し、俺の気持ちは伝える事も出来ずに終わった。でも、荒北の事が好きな気持ちは変わらない。いつかきっと笑って思い出せる良い思い出になるのだろう。
そう考え、気が付けば俺は箱根のある丘に来ていた。
「そうか、この丘は伝説の…」
昔から伝わる天使と若者の恋の伝説。像の前で好きな人に告白すると叶うという伝説だ。話には聞いていたが実際に来るのは初めてだった。
「…見てくるか」
俺は像に近づく為に軽い階段を登り、丘の頂上へ着く。頂上へ広がるオレンジ色の夕陽に目を奪われ、一気に箱学で過ごした3年間が蘇った。
自転車競技部の仲間との出会い。
夏のインターハイ。
毎日恒例の荒北との喧嘩。
文化祭で荒北と無理矢理やらされた恋愛の劇。
夜中にこっそり寮を抜け出し荒北と行ったコンビニ。
荒北の笑顔。
荒北の俺を撫でる手。
思い出すのは荒北の事ばかりだった。
荒北…っ。
目の前の夕陽が滲んで行く。
こんなにも荒北の事が好きなのに、何故叶わないのだ…。
俺はその場でしゃがみ込み涙を流す。
「っ…あら、きた…」
「なァに?東堂チャン」
大好きな、優しい声がした。ふと頭に重みを感じる。温もりを感じる。間違いなく荒北の手だ。
「どう、して…」
「卒業おめでとォ、お前のこと待ってたんだヨ」
「え?」
「お前に言いてェこと、あるんだよねェ…」
荒北が少々顔を赤らめながら頬をかき一言俺に告げた。瞬間、俺はそのまま荒北に飛びついた。泣く俺を抱きしめ、荒北は微笑む。そしてもう一度、

「好きだヨ、東堂」


「東堂ォ、終わったァ?」
「うむ、今終わった所だ」
「今日風強ェな」
ベランダに出てきた荒北が俺の横に並ぶ。
砂埃を運ぶ春風が洗濯物を揺らしていく。
俺達は卒業して二年後の今日、荒北の進学する大学の近くのマンションで同棲を始めた。今日は二人で近所へ挨拶をしたり静岡の道が全くわからない俺に荒北が教えてくれたりと朝から忙しかった。
最後の洗濯物を干し、空を見上げる。昼間の白い月がなんだか綺麗に見えた。俺の隣に並んだ荒北もそんな月を見上げた。凛と澄んだ青い空に羊雲が流れていく。荒北の手がそっと俺の手を掴む。
「天気良いし、大学休みだし…散歩するゥ?」
「良いな!」
俺が手を握り返し提案に乗ると荒北は優しく微笑む。この優しい笑顔はあの日から変わらない。今日から二人で過ごす初めてが始まる。
部屋を出て階段を駆け下り、マンションの目の前にある公園へと向かった。平日の昼間の公園は人がいなく、俺と荒北の二人だけだった。俺と荒北は手を繋ぎながら舗装された道を歩く。
幸せだ、そう思いながらふと二年前のあの事を思い出した。
「そう言えば荒北、高校卒業間近の日に女の子に何を言われていたのだ?」
「もうすぐ桜咲くんじゃねェの」
「本当だ、蕾があるな」
「今度は満開の時に花見でもすっか?」
「うむ!新開やフクも呼ぼう!」
「良ィけど…まだ俺らの事教えてねェよな」
荒北が言い辛そうに言う。確かに俺たちの関係は教えていない。呼んだところでなぜ俺たちが一緒にいるのかと疑問になるだろう。しかし俺はくすりと笑いながら荒北に横から抱き着いた。
「あいつらならすぐに受け入れてくれるだろう。共に戦ってきた仲間だ。歓迎してくれるよ」
「そうだな、呼んで驚かすかァ!」
また、くしゃりと撫でる。そんな荒北に俺は微笑んだ。

桜の花が咲くのをこうして二人で待つ喜び。これからも小さな喜びを分かちあって行きたい。
この先も隣でずっと微笑んでくれ、荒北。