うそついてごめんね
夕飯の時も団蔵と離れた位置に座った。
できるだけ目を合わせることもないような位置に。
食事の最中に乱太郎達が宿題の話をしてきたので気持ちを逸らすことができたのは良かった。
(みんなの楽しい夕飯で、暗い顔なんてできないもんな…。
だが心の奥底では団蔵のことばかり考えていた。
あれから半日経っても気持ちの整理はつかなかった。
こんなことで新学期、勉強ができるのだろうか?
一年は組の頭脳なんて呼ばれていても、こんな時は全然駄目だな、と思いながら。
「みんな、食べ終わった?それでは…
「「「「「ごちそうさまでしたー!
「庄左ヱ門。
「伊助、何?
クラスメイト達が部屋を出ていく中で同室の伊助が話しかけてきた。
気のせいか顔がわくわくしているような、せかせかしているような。
「ぼく、これから火薬委員会の集まりがあるんだ。
「こんな夜に?
「う、うん!だからね、悪いけどぼくに代わって夕飯の片付けをやってほしいんだ。
「いいけど、今日の夕食当番は三人だろ?伊助一人抜けるくらいなら残りの二人でも片付けられるんじゃ…。
「実はきり丸も委員会なんだ!だから庄ちゃん、お願い!
「うん。伊助も大変だねー。
感謝の言葉を早口で言うと、伊助はすぐに部屋を出ていってしまった。
部屋に残っているのは自分と、夕食当番の…
「あ…。
「庄左ヱ門…!
残る一人、団蔵だった。
いくつかの茶碗を洗い場に運ぼうとした手が思わず止まった。
カラカラと重なった茶碗が音を立てる。
手が、震えている。
「団蔵…。
「庄左ヱ門、おれ…。
「ごめん、団蔵、学校辞めるからたくさん話したかったけど、学級委員長の仕事でなかなか時間なくてさ、ご飯の時も宿題のことで乱太郎、きり丸、しんべヱに…。
なんとか気持ちに蓋をして話そうと口を開けば、息継ぎも忘れるほど慌てた口調で、出てくるのは団蔵に近付かなかった言い訳。
仕事があったことも乱太郎達の相手をしたことは事実だけど、理由は…本当のことは言えない。
いっぱいいっぱいになっていたら、いつの間にか団蔵が庄左ヱ門の目前に立っていた。
「庄左ヱ門!
「…!
ぐっと両肩を掴まれて
真っ直ぐに
庄左ヱ門と向き合う。
「庄左ヱ門…あのな……、
「……。
真っ直ぐな瞳で見つめられ、庄左ヱ門は心を覗かれている気持ちになった。
そんな顔をされたら、蓋をしている気持ちが揺らいでしまう。
こんな純粋な友達に、自分は嘘をついている。
嘘は、駄目だ。
「ごめんね……団蔵…。
「て、えー!なんで庄左ヱ門が謝るんだよ!
「嘘…ついてたんだ、ぼく…。
「へ?
「本当は…
忍術学園辞めてほしくない
ずっと六年生まで…
卒業するまで
何回落第したって
一緒にいたい…!
「寂しくて…仕方なかった……。辞めないでよ、団蔵…!
今日一日溜め込んだ気持ちが一気に口から流れ出した。
対する団蔵は、真っ直ぐに庄左ヱ門を見つめながら
申し訳なさそうな表情で息を吐いた。
「あのな、庄左ヱ門。
「うん…。
「今日、何月何日?
「…。
「四月一日だろ?
「うん…。
「エイプリルフール、だろ?
「……、うん…。
「だからさ…
庄ちゃんなら、わかるよな…?
団蔵の言葉を聞いて
心の陰りに
光が射した。
………っ
だがその光は
強かった。
ぽろぽろ…
「え、えー!!庄左ヱ門?!
「…だんぞ……。
「な、泣かないでよ庄左ヱ門!おれ辞めないよ!今朝の話、全部ウソだからさ!
「わかってる…。わかってるんだ…、でも…でも…!
涙が止まんないんだよ…!
「団蔵が忍術学園辞めていなくなることを思うと、すごく悲しくなって…泣きそうだったのに…!でも涙は出なかったのに…、団蔵が辞めないんだ、一緒にいられるんだって思うと……、嬉しいのに涙が出てくるんだ…!
どれだけ悲しんでも流れなかった涙が、喜びのあまり歯止めが利かずに溢れ続ける。
「ごめん!ごめんよ庄左ヱ門!辛い思いさせて…、変なウソついてごめん!
「う…うわ…っ!
団蔵が庄左ヱ門を抱き寄せる。
涙でぼろぼろの庄左ヱ門は大人しくその腕に収まる。
そしてその中で幼子のように泣いた。
「団蔵は悪くないよ…、ぼくが勝手に落ち込んだだけだ……。
「そんなわけないだろ!おれがもっと下らないウソついてればよかったんだ!休み中に、馬に乗れなくなったとか、字が上手くなったとか…!
「…うぅ…、でも字は書いたらすぐバレるんじゃない?
ずるっ!
「…庄ちゃんてば、冷静ね…。
思わずお約束ワードが飛び出すと、どちらからともなく笑い出した。
涙は出ていたけど、もう大丈夫だった。
「おれ、これからも忍者目指してがんばるよ。改めてよろしくな、庄左ヱ門。
「団蔵。ぼくの方こそ、よろしく。
(よかったね、庄ちゃん…。
伊助は廊下でずっと二人の様子を伺っていた。
(でも、ウソつくのって心臓によくないな~。忍者ならそのくらい平気でできないとなー。