僕は明日、五歳の君とデートする(A)
それと同時に科学・文化の面での交流も検討された。しかしこの場合も因果律の問題を避けることができないので、人的接触を前提とする交流は不可と判断され、秘密裏に異世界の科学・文化を収集するだけに留まることになった。
但し、貨幣が異なっているため収集資金は金などの貴金属を異世界の闇市場で小口に分けて売るなどの方法で調達している。
こちらの世界の人物と同じ人物は異世界に存在しないことがほぼ確認されている。これは十九世紀後半の歴史転換以降、結婚や出産にずれが生じたことが原因と思われている。
それ以前の文物については、こちらの世界で火事や戦災で焼失したものが異世界では遺っているケースがあり、その分野での研究が進むことが期待されている。
リングは京都大学超時空間研究所が管理している。
また、リングの使用については政府関係者や海外を含む有識者で組織する異世界調査機構がその権限を持っている。
機構には複数の海外先進国の研究機関からリングの貸与を求める要望が寄せられている。これは、異世界に移動した後、パスポートが異なるため日本から出国することができず、異世界での海外の状況を直接調査することができないためだ。
しかし貸与先の国がリングを悪用すれば場合によっては強大な力を得ることが可能となり、国際間のパワーバランスが崩れてしまう恐れがある。
そのため、機構は今のところリングの貸与に慎重であるが、限定的に貸与を始めて、いずれは各国巡回することも検討されている。
異世界の存在は、人類の思考にパラダイムシフトをもたらした。
我々は一人ではないという考えは、本来は異星人との接触を想定したものであったが、同じ地球、同じ人類がもう一つあるという現実が今後の思想・哲学に大きな影響を与えることは間違いない。(付録了)
作品名:僕は明日、五歳の君とデートする(A) 作家名:gatsutaka