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僕は明日、五歳の君とデートする(A)

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 リングは周囲の土砂が取り除かれてもそのままの形で自立していたが、可撓性(かとうせい)があり少しの力で容易に変形できる。ただしその力を取り除くと元の形状に戻る。輪ゴムをイメージすると分かりやすい。
 移動させることも可能で、移動後に元の位置に戻ることはない。
 リングをくぐると異世界に通じているが、反対側からくぐると何も起きない。

 異世界側の移動ポイントではリングに相当する物体は発見されなかった。
 しかしリングを移動させると、異世界側の移動ポイントもそれと同じように相対的に移動する。
 これにより、異世界側の移動ポイントを雑木林の斜面からもっとアクセスし易く且つ異世界人に気付かれない場所へ移動させることが可能となった。

 この移動ポイントの移設は、大きな矛盾を抱えていた。

 両世界の時間軸は逆向きになっている。
 午前〇時における異世界との時差はマイナス七時間二十四分三十六秒と計測されていた。つまりこちらの世界の午前〇時に異世界に移動するとあちらの世界の午後四時三十五分二十四秒に着くことになる。午前〇時一分に移動するとあちらの世界では午前七時三十四分二十四秒である。
 A地点にリングがあるとする。このとき異世界の移動ポイントをA’地点とする。時刻TにリングをB地点に移動させたとする。移動後の異世界の移動ポイントはB’に移る。
 その様子を異世界で観察すれば、「それまでB’にあった移動ポイントが時刻T’にA’地点に移動した」ように見えるはずである。(実際には目では見えないから譬えの表現である:T’は時刻Tに異世界移動した場合の向こうでの到達時刻である)

 ところがそうならなかった。

 時刻Tの前にA地点でリングを通って移動した人物Xにとって、向こうの世界での移動ポイントはA’であり、それはいつまで滞在してもそのままである。
 時刻Tの後にB地点でリングを通って移動した人物Yにとって、向こうの世界での移動ポイントはB’であるが、その移動ポイントは時刻T’を過ぎてもA’に移動せず、B’のままだったのだ。

 この現象についても色々な仮説が立てられたが、未だに決着はついていない。
 現時点での有力な仮説は、元々向こうの世界に移動ポイントという特別な場所は存在せず、出現した場所で向こうからこちらに戻ることができるのは移動した人物や物に従属して時空間に発生する性質に過ぎないのではないかということだ。

 この説はもう一つの矛盾にも説明を付けることができると期待されている。

 時間軸の向きが逆なのだから、異世界での滞在はこちらの世界の時間で言えば過去に向かっていることになるはずである。しかし、例えば一時間滞在した人は、出発時刻の一時間前ではなく一時間後に戻ってくる。
 戻ってくることがこちらから向こうに移動したことで発生した時空間の性質によるのであれば、経過時間後に戻ることに問題はないということにできる。

 この説を象徴的に「リングが伸びる道を作っている」と表現することもある。
 リングに入った時に、こちらに入口があり向こうに出口がある道ができると考えるのだ。その瞬間から入口は未来に、出口は異世界の未来、つまりこちらの過去に移動するが、間の道はそれに引っ張られて延びる(伸びる)ということである。だから向こうの出口にもう一度入れば、一時間後に戻ってくるのは当然ということだ。

 次に問題になったのは因果律である。
 ある時点に異世界に行き、その日の新聞を入手して戻る。翌日以降にもう一度向こうに行けば、異世界での過去、つまり新聞に記載されている事件が発生する前に着く。そこで事件の発生を阻止したらどうなるか。

 これはある交通死亡事故をターゲットにして実験が行われた。脇見運転が原因で登校中の小学生がはねられて死亡した事故を、その小学生を足止めすることで防いだのだ。

 ところがこの実験を行うために異世界に行ったメンバーは事故を阻止したらすぐに戻ることになっていたのに誰も戻ってこなかった。
 実験プロジェクトの別メンバーが翌日、つまり異世界で事故を阻止する前日に移動し、そのまま一日滞在して観察を行った。すると、驚いたことに事故阻止メンバーは現れず、目の前で事故が発生してしまった。最初のメンバーは現在でも行方不明のままだ。

 この行方不明事件は更なる大論争を巻き起こした。

 まず考えられたのは最初のメンバーが移動のときに偶然発生した何らかの事態に巻き込まれて異世界に到達できなかったということだ。
 何らかの事態とは何かということを度外視すればこの説明が一番シンプルであり、多くの人がこの説を支持している。
 しかし実験失敗の後も因果律に影響を与えない形での異世界移動は何度も行われており、それらの移動で行方不明者は一人も出ていない。因果律実験のときだけ偶然に何らかの事態が発生したと考えるのは不自然さが残る。

 もう一つの説は事故阻止は成功していたというものである。
 実験メンバーは異世界に到着し、交通事故を阻止した。そのとき事故があった世界と事故がなかった世界の分岐が起きたと考えるのだ。
 但し、分岐が発生したのは異世界側だけではない、同時にこちらの世界も分岐したと見なす。
 これによって実験メンバーの「道」の入口は分岐した世界の方に移ってしまう。そのため彼らはこちらの世界に戻ってくることができず、分岐した世界に戻ってしまったと考える。
 分岐が発生したのは事故を阻止した瞬間ではない。彼らが異世界に到達した瞬間である。そうでなければ別メンバーは彼らを発見しなければおかしいからだ。

 この説は現状では検証ができないため支持する人は少ない。
 それにこれを認めると、「人間の意思」が宇宙規模で世界に影響を与えるという重要な問題が発生する。この点については「決定論」的な解釈で一応の説明を付ける方法もあるが、かなり難解な理論であり、検証もできていない。

 しかしこの説の前から、こちらの世界と異世界との関係を「元々は一つの世界であったが一九世紀後半に分岐し、更に何等かの理由で時間軸の向きが百八十度変わってしまった」とする解釈が唱えられていた。
 異世界が例えば宇宙開闢のビッグバンのときに大量に発生したベビーユニバースの一つであるなら、これほど両世界が似通っている理由が説明できない。分岐説は両世界の類似性、特に一九世紀後半までの歴史が全く同じであることを説明できる。
 もしこれが正しいとすれば今回発生したのも同じ事象であると見ることができる。

 いずれにせよ、この行方不明事件の後、因果律に影響を与える実験は実質禁止された。
 このような学術的調査が進行するにつれて、異世界への移動をどのように利用するかという議論も始まった。
 最初に検討されたのは経済的な活用である。資源や生産物の交易で利益を得ようというものである。しかし人的交流が必要であるため因果律がネックとなって不可能と判断された。
 経済と表裏する紛争・戦争、領土的野心を異世界に持ち込むことも厳格に禁止された。これはリングが発見されたのが日本だったことが幸いしたかもしれない。