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僕は明日、五歳の君とデートする(B)

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(B1)

 私は私の世界に戻ってきた。
 異世界調査機構の理事長を務めている港伯父さまの尽力で、五年に一度リングが日本に返還されるときに、私だけが特別に調査や旅行以外の個人的な目的で異世界への移動が許可されていた。
 だがそれも今回で最後だ。私は五歳の高寿を震災の火災から救い出すことができた。
 あのとき五歳の私が高寿から貰った想いは、さっき私が高寿に伝えた。私たちのループはこれで完成したのだ。
 閉じた時間の輪の中で、私たちの想いは永遠に回り続ける。
 私が十歳のとき港伯父さまは私にこう言った。
「愛美、お前は向こうの世界にいるお前の運命の人に会いたいかい?」
 港伯父さまの言う「運命の人」が、五歳のときに私を爆発事故から救ってくれたあの人のことであることはすぐに分かった。
「はい。会いたいです」
「うん、分かった。愛美が行けるようにしてあげる。楽しんでおいで」
 そのときの移動は一日だけ、それも移動して高寿に会って一緒にお茶を飲みすぐに戻るという短時間の滞在だった。
 その次、十五歳のときは前回より長い時間、高寿とゆっくり話をすることができた。港伯父さまは「今回も楽しんでおいで」と送り出してくれた。
 二十五歳の高寿は前に会ったときよりも少し若くなっていて、少し痩せているように見えた。でもその眼差しは変わらない。この人が本当に私の運命の人だと思った。
 高寿は「今から五年後に、僕たちは恋人同士になるんだよ」と教えてくれた。
 私はその言葉を聞くだけで夢見心地になった。初めて会ってから十年間、ずっと恋焦がれていた高寿と恋人になれることを高寿自身が約束してくれた。
 でも、「今恋人になってはいけないのですか?」と聞かないではいられなかった。
 高寿は私の目を見たまま「僕は今でも君の恋人だよ。でも君には五年後に二十歳になる僕がいる。まだ君のことをよく知らないけれど十五歳の僕が待っている」と言った。
 高寿は私を大切な宝物のように扱った。私に触ることもしなかった。
 それから高寿は二十歳の私がこちらの世界に来てするべきことを教えてくれた。そのときの高寿は私が異世界の人間であることを知らないから、それをちゃんと納得できるようにしてあげなければならない。
「細かいことはこちらに来て最初に会う僕に聞けばいい。君と過ごした間の出来事を全部教えてくれる。君はその通りに行動しなければならないんだ。それは君にとってとても辛いことだ。君が会う僕は毎日記憶を無くしていく存在だからね」
 そのことは理屈では分かっていた。でも、それがどんなに辛いことなのかは、そのときの私はまだ分かっていなかった。
 高寿は「お土産だよ」と言って私に大きな袋を差し出した。中に何十冊もの本が入っていた。
「これは何ですか?」
「『ガラスの仮面』というマンガだよ。二十歳の君は高校生のときに読んだと言っていたけれど、どうも君の世界にこの本がないようだから持ってきた」
「ありがとうございます。あの、少し読んでもいいですか?」
 高寿が頷いたので私は一巻を取り出してページをめくってみた。面白い。引き込まれる。
 私が読んでいる間、高寿はずっと私のことを見ていた。一巻の半分くらいまで読んだところでそれに気付いて顔を上げると「気に入ったみたいだね」と言って嬉しそうに笑った。
「ええ。でも、こんなに沢山」
「君だから正直に言うけど、僕はまだ駆け出しの作家兼イラストレーターをやっていて貧乏なんだ。でもこの本はその少ない稼ぎで買った。普段は食べるものにも困って友達のところに転がり込むこともあるけどね。僕がそうなったら助けて下さいって君がお願いしてくれていたから、あいつらは今でも嫌な顔一つしないで受け入れてくれるんだ」
 実際に言ったのは「助けて下さい」ではなく「お菓子を送って下さい」だった。あのときは私も酔っていたから。
 別れ際に高寿は一度だけ私の名前を呼んでくれた。
「愛美、さようなら。また会おう。君は二十歳の僕に、僕は十歳の君に」
 その目は潤んでいた。私は高寿に手を差し出した。高寿はちょっと躊躇ったあと、両手で私の手を包んでくれた。高寿の手は暖かかった。
 その後の異世界移動では、港伯父さまは私がリングをくぐるとき何も言わずに大きく頷いて送り出してくれた。
 二十歳のときの、あの愛しい日々を思い出すのは今でも少し辛い部分がある。
 ただ、短い期間ではあっても、全力で高寿を愛し、私達が愛し合うことができたことは誇りに思うし、満足もしている。
 高寿が辿ってきた出来事を忠実になぞることはその多くが演技ではあったけれど、あのときに言ったこと、行なったことは全て間違いなく私の本心だったのだから。
 こちらの世界に戻った私は、美容師の専門学校を続けながら劇団のオーディションを受けた。昔から運動が苦手で演技についても素人だったけれど、絶対に女優になりたいと思った。
 高寿と過ごした日々のことが向こう見ずな自信を与えてくれたし、そして勿論高寿から貰ったガラスの仮面の影響があったのだと思う。
 オーディションに合格して、端役を貰って劇団の舞台に立つうちに、テレビや映画から誘いを受けるようになった。
 それから間もなく主役に抜擢されるようになり、沢山の賞も頂いた。
 高寿との出会いが、私に素晴らしい人生をもたらしてくれたと感謝している。

(B2)

 最後の異世界移動を終えた私は、しばらくお休みを貰ったあと仕事に復帰した。
 復帰後最初の仕事は映画になった。
 文月博武というベテラン人気作家さんが最近出したベストセラー小説を原作としたもので、私もそれを読んでとても気に入っていた。
 出合ったときからいずれは離ればなれになることが運命づけられている男女が、その状況をどうにか変えようとしながらも次々に現れる障害に阻まれ、最後の短い期間を互いに思いやりながら過ごすという内容だ。
 粗筋だけ取り出せばそれほど目新しい内容ではないのかもしれないが、サスペンス仕立てで立ち現れる障害を解決したと思ったらそれが逆に二人をより追い込んでいく展開と、何より二人が見せる細やかな気配りに満ちた愛情が読む人の心を打つ。
 オファーを受けたとき、登場人物のラインナップからみてヒロインの母親役か主人公の上司の役だろうと思っていたのに、提示されたのは二十歳という設定のヒロイン役だった。
 舞台ならともかく、顔のアップもある映画で三十五歳の私が二十歳の役をやるなんて有りえないと固辞した。しかしプロデューサーと監督の二人がかりで「あなたなら出来る、是非」と口説かれてしまった。
 それで覚悟を決めて出演することにした。
 今回の映画は原作者さんが脚本も手がけるそうで、よほどこの作品への思い入れがあるのだろうと思い、私もそれに応えるつもりだった。
 主要キャストが決まった段階でマスコミを招いての製作発表会が開催された。製作会社側に何か事情でもあるのか、まだ脚本を受け取ってもいない段階だった。
 その発表会には原作者さんも出席することになった。ベテランの人気作家でありながら、私生活は勿論、顔すらも一般には全く知られていない大物が初めて公の場に現れるということで多くのマスコミが集まった。