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僕は明日、五歳の君とデートする(B)

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 発表会の日、出演者全員が揃っている控室にその原作者さんがプロデューサーに連れられて現れた。濃いサングラスとマスクをしているので顔が見えなかった。
「少し風邪をひいているから皆さんにうつさないためにマスクのままで失礼します」と小さな声で言った。
 待っている間に共演者さん達が「年齢不詳だけど、五十歳くらいだろうと言われているよ」と言っていた。短めのロマンスグレーに痩身の文月さんは、その髪にもかかわらずもっと若いように見えた。
 それから文月さんは端から順に出演者一人一人と「宜しくお願いします」と挨拶を交わした。
 私の前に来ると、私に顔を近づけて「あなたの演技を期待しています」と、耳元で囁くように呟いた。
 なぜ私にだけちょっと違った挨拶をしたのだろうかと、一瞬「ん?」と思ったが、言われたのはごく普通のことだから深くは考えないことにした。
 それから記者やテレビカメラが待つ発表会場に全員で移った。
 最初にプロデューサーからこの映画の企画意図が発表され、監督が抱負を述べた。
 そして原作者さんの挨拶が始まった。
 全てのカメラが向く中、文月さんがゆっくりとマスクを取り、サングラスを外した。ストロボが激しく光った。
 私はその横顔を見て息をのんだ。まさか、そんな。有りえない。でも、でも。私が見間違うはずがない。私は立ち上がって彼のそばに行きたい衝動を必死で抑た。
 彼は穏やかな口調でこの映画に対する思い入れを語った。作家になったときからずっと温めていたアイデアをようやく形にできた。それを映像にしてもらえ、脚本を任せてもらえ、キャスティングにも自分のわがままを聞いてもらえたことへの感謝を述べた。
 声も同じだ。でも、どうして。
 私は自分が激しく動揺して、それが態度に現れていることを自覚していた。まだ私の挨拶の番ではないから周囲に気付かれてはいないだろうが、このまま大人しくここに座り続けることができるかどうか。
 キャストの挨拶が始まり、まず主役の若手俳優が意気込みを語った。
 私の番だ。司会者が私の名前を呼んだ。
「次はヒロイン○○役の福寿愛美さんです。この役は原作者である文月さんが福寿さんでなければ映画化を認めないとまで言われて、勿論監督も異論がなく、猛烈に口説いて引き受けてもらったとのエピソードを伺っております。では、どうぞ」
 私をヒロインにしたのは彼だったのだ。私はそれを聞いてさっき彼が私に言った言葉に二つの意味が込められていたことを悟った。
 一つは勿論映画本編での演技のこと。そしてもう一つはこの場でのことだ。
「私はこの作品を私の代表作にします」
 私は動揺していない演技をしながら、たった今決めた決意を語った。
 記者席からどよめきが起きた。
 撮影が始まってもいない作品でこんな大胆な宣言する女優はあまりいないだろう。
 司会者がちょっとだけ「あれ? それで終わりですか」と言う顔になったものの、「素晴らしい決意をありがとうございます。次は……」とプロらしく進行させた。
 発表会が終わって、私はすぐに彼を追いかけた。途中でテレビクルーに捕まってなかなか解放してもらえず、ようやく控室に戻ったらもう彼はいなかった。
 私が息を切らしていると、会場になっていたホテルのスタッフが私に「文月さまからメッセージをお預かりしております」と封筒を手渡してくれた。
 福寿様と書かれた封筒を開けるとカードが入っていて「ここに来て下さい。いつでもいいです」と都内の住所が記されていた。
 その日の後の予定をもどかしく思いながらこなして、マネージャーと別れたのは午後十時過ぎだった。タクシーを拾ってカードの住所を告げる。タクシーは大きなマンションに着いた。
 エントランスのインターフォンで部屋番号を押す。
「どうぞ」とだけ声が聞こえてエントランスのロックが解除され扉が開いた。
 エレベーターで最上階に上って、目的の部屋の前に立つ。計ったようにドアが開いた。 説明なんか後でいい。
 私は高寿の胸に飛び込んだ。

(B3) (※Aの世界からの流入点 ← A2から)

 二人は僕の話を驚きながら聞いていた。
「まさか先生と愛美がそんな関係だったとは。先生は愛美が明日事故に遭うこともご存知だったんですね」
「港さん、そろそろ先生は止めて下さい。南山で結構です」
 僕は愛美の伯父さんから先生と呼ばれるのは面映ゆ過ぎると感じていた。
「分かりました。では南山さん、今伺った話は私達にとって未来の出来事です。それを聞いたことで、私達にはこれから先南山さんと愛美を必ず会わせる、何と言うか、義務が生じました」
「因果律から言うとそうなりますね」
「愛美は私のことを話していましたか?」
「いいえ。一度も」
 港さんは少し考え事をするように黙り込んだ。
 これまで聞いた話から、異世界人同士の恋愛は少なくとも向こうの世界では初めてのケースなのだろう。こちらの世界で、僕と愛美より前にあったかどうかは知る由もない。
 因果律に異変があったら元の世界に戻れないかもしれないということは、愛美が僕に会っていたのはそういう大きなリスクも承知でということだ。僕は自分が何も知らないで、愛美だけに辛い部分を背負わせていたのだと改めて思い知った。僕はその愛美に何か報いてやることができないかと考えていた。これまでそれは不可能だったけれど、港さんを通じてなら可能かもしれない。
「今回のテストを総括するときに、小さな子供を含む家族旅行という形態は異世界旅行から除外されるかもしれません。しかし、愛美を五年毎にこちらに来させることはお約束します。それが因果律を守ることになりますから。これまでの長い間、愛美のことを想って頂いてありがとうございました。私にとって愛美はまだ五歳の女の子だから実感が伴わないお礼で申し訳ないですけれど」
 港さんはそう言って立ち上がると深々と頭を下げ、少し笑った。
 僕は持ちかけるなら今だと思った。
「一つ聞きたいことがあります。こちらの世界からそちらの世界に物を持って行くことは可能なんですよね。生き物はどうなんですか?」
「小動物の実験では成功しています。そもそもで言えば私達がこちらに来るだけで、呼吸や食事で空気中のウイルスとか、食べ物の中の微生物を取り込んでいるのです」
「それによる因果律の問題はないのですか?」
「極端なことを考えると全くないこともないのでしょうが、いまのところ起きていません」
「どうやって連れていくのですか?」
「こちらから向こうに送る手段はありませんから、戻るときに抱えていきます」
「こちらから向こうに行った人間はいますか?」
「それはいません。そもそも私達異世界人がこちらに来ていることを知っているのは数人のエージェントと南山さんだけなのですから」
「では、私だったら連れて行くことは可能ですよね」
「あっ……」
 港さんが絶句した。それから足立さんと顔を見合わせ、互いに「有りえない」とでも言うように顔を横に振った。
「南山さんと駆け引きのようなことはしたくありませんので、正直に言います。できると思います。でも行ってどうされるおつもりですか。愛美に会われるとか」