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オトナダケノモノ

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オトナダケノモノ 〜ソノアトデ〜





「……これは豪勢だな、一体どうしたんだ?今日が何かの記念日だったとは記憶していないのだけれども」

 不思議そうに首を傾げながらも柔らかく笑みを浮かべるサガにつられて、同じように私は笑みを返した。
 此処は聖域から少しだけ離れた場所にある小さな村落。そこに私が空き家となっていた小さな家を借りて、暮らすようになって一年。
 聖域での次期教皇選出騒動ののち、他国から集った仲間たち同様、私も故郷へ戻るつもりだった。だが、ちょっとしたきっかけと縁でこの場所に暮らす事となったのだ。
 聖域からほど近い場所ということもあり、聖域に来たついでにと仲間たちも時折訪れるのだが、若干一名だけは当然と言わんばかりに(むしろ、自宅のように)ほとんど毎日といってもいいほど、確実に此処へ来る者がいた。むろん、それはサガである。
 きっかけを作ったのも、縁を結んでくれたのもサガ。だから、当然といえば当然だし、ここの村人たちはサガのことを本当に好いているようで、私に対してもサガ同様にとても親切に接してくれている。
 私にすれば、とても有り難かったし、特別な場所を提供してくれたサガにとても感謝していたが、サガはサガなりに「思惑があったから」ということらしい。まぁ、今に思えば、まんまとその思惑とやらに嵌った感は否めない。それでも今が互いに幸せなのだからいいのだと思っている。
 聖域での作業を終えて帰宅(もはや訪問とはいえない)したサガは少し疲れた顔をしていたが、小さな居間にあるテーブルの上に所狭しと並べられた料理を見て、目を瞠って冒頭の言葉を告げたのだった。

「きみの記憶通り、今日が何かの記念日というわけではないのだよ。何故だか村の皆が此処に寄り合って、各自の十八番料理とやらを作って行ってだな……どれが一番なのだか決めて欲しいということだ」
「で、それを私に決めろと?」
「そうらしい。きみならば公正に評価するだろうし、舌も肥えていそうだからという理由のようだ」
「おまえでもよかったのでは?」

 カタリと椅子を引き出して並べられた料理を一通り眺めたあと、サガはようやく席に着いた。

「正直、私にはどれも似たり寄ったりの味で……それこそ『公正な』判断しかできなかったので、却下されたのだよ」

 少し不満が残っていたので、おのずと唇を突き出してしまう。眉根も少しばかり寄っていることだろう。そんな私の頭にサガは手を伸ばし、よしよしと宥めるように撫でた。こうやってサガは時折私を子ども扱いするのだが、不思議と厭な気持にはならず、むしろどこかで喜んでいる自分がいた。

「ははは、おまえらしいな。では遠慮なく、いただくとしようか」

 他愛ない会話をしながらも少しずつ、料理を口に運んでは確かめるように味わうサガの様子を眺める。とても当たり前の風景だけれども、本当は貴重で特別なことなのかもしれないと最近は思う。

「ん?どうした」

 ぼんやりとそんなことを思っていると、もうこれ以上は食せないと大きく肩で息をして、フォークを置いたサガの質問に躊躇したけれども噛み締めるように答える。

「……もしも聖戦が起きていたら、今のこの瞬間もなかったのだろうかと少し思った」

 小さくサガは首を傾げて、「うーん」と渋い顔をする。

「そうだな、考えるだけでゾッとするが。本来はその時の為に私たちというものがいるんだろうし。贅沢な願いだとは思うが、神様方にはこのまま大人しく眠っていただけるとありがたいな」
「ああ。本当に」

 たぶん、そんな願いごとをしてしまうことは決して褒められたものではないのだろうけれども、平和であるに越した事はないはずだと私もサガも小さく肩を竦めながら、笑うのだった。




Fin.
作品名:オトナダケノモノ 作家名:千珠