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二口と潔子さんがたまたま出会って喋ってるだけの話

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「まさか。何度でもへし折るんで覚悟しといてください」

 そう言えば、彼女は満足そうに微笑む。目の前の少女に勝てる気がしないと感じてしまう。けれど、それが嫌とは思えなかった。

「いつか東峰と試合することになったら観に行くね」
「元エースさんの応援ですか。けど、負けませんよ」

 二口にだってプライドはある。何年後かどころか、本当に実現するかも分からないことでも張り合ってしまう。それほど、バレーに情熱を捧げているのだ。
 楽しみにしてる。そう告げる口元は、やはり楽しそうだった。

「その前に、今度の夏はあんたのところの後輩をコテンパンにしてやるんで」
「うちの後輩たちは強いからそう簡単に負けないよ」

 自信ありげに、けれど事実を述べるマネージャーから本当に部員を信頼していることが伝わる。その姿に、涙を堪えて自分たち下の世代へと席を譲った先輩たちを思い出す。こんな信頼をして貰えていたのだろうかと。
 じゃあ、ちょっと用事があるから。そう言って男四人に囲まれていた烏野のマネージャーは駅へ向かって歩き出す。慌てて声を掛け直そうとしたクラスメイトを引き留めていれば、くるりと彼女は振り返った。伝え忘れていたことを思い出したように。

「じゃあね、二口」

 楽しげな表情で言い放った少女に放心する。まさか、名前を覚えられていたとは思ってもみなかった。
 後ろ姿が消えたことを確認すると、ずるいだの紹介しろだの言うクラスメイトに眉を顰める。

「美人に笑顔を向けられてお前は何とも思わなかったのか!」

 言われて思い出せば、確かに美人の笑顔の破壊力はすごかった。けれど、二口の頭の中はそんな美人のことよりもバレーでいっぱいになっていたせいでそんな考えには至らなかった。それに、と続く言葉を告げる。

「俺の好み、もっと軽い感じの子だから」

 かわいい系が好きだしと言ってみれば嘆きながら襟元を掴まれ、別のヤツには地面に膝を突く。
 絡まれている二口は目の前の状況に、ただただ早く帰ってバレーがしたいと思うだけだった。