変化と不変
入口で誰かが入店した声がした。
「ここ?」
「ハイ、亀吉様の団体様です。」
ガラッと個室の障子が開けられ、
「悪ぃ、遅くなった。」
と入ってきたのは
またしても獅子尾だった。
「先生!」
「わ~~!変わってなーい!」
ワッとまた場が盛り上がって
カメはウシシシと喜んでいる。
大輝は、仕込みってこれかよ、と
チッと舌打ちをした。
横を見ると
すずめが
「来ないって聞いてたのに。」
と青くなっている。
「?どうした?」
大輝が尋ねると、
「なんでもない!
美羽!トイレいこっか?」
明らかに挙動不審だ。
「え~美羽、今行きたくない。」
チヤホヤされて
その場が居心地いいらしい。
「いいから!」
すずめは自分がトイレ行きたいの?
と思われるほど焦っている。
ゆゆかは「あーあ、知らない。」
と我関せずの姿勢だ。
「?」
獅子尾がなんかあるのか?
疑いたくないが
大輝の頭にチラッとそんなことが
掠めたと同時に、
「あっ!!せんせいだ!!」
美羽の嬉しそうな声が聞こえ、
タタタッと獅子尾に走りより、
「せんせい、ダーイスキ!」
と獅子尾に抱きつく美羽。
ひいいいい!
まるでムンクの叫びかのように、
すずめはこの世の終わり、
というような顔をしている。
「!!!!!!」
大輝は一気に酔いが冷め、
怒りでプルプルしていた。
ゆゆかはお腹をかかえて、
ヒーヒー笑っていた。
「オイ。」
ゴゴゴゴという地響きが
聞こえてきそうだ。
「ハッハイッ」
すずめはちぢみあがる。
「これ、どういうことだよ?」
「えっと…あのその…」
何て説明していいのか
わからない。
「は?聞こえねぇ。」
「おじさんのカフェで偶然会って
美羽が先生を
気に入っちゃったみたい…
なんだよね…」
おずおずとすずめが説明する。
「アイツ…許せねぇ。」
美羽がスキスキ抱きついて、
獅子尾は
「わっなんで馬村2世がここに?!」
と動揺している。
ゆゆかが
「美羽、初恋みたいよ。」
と、大輝に耳打ちして
火に油を注ぐ。
「ゆっゆゆかちゃん!!」
「~~~~~!!!てめぇ!」
大輝がゆゆかの言葉で
逆上し、獅子尾の胸ぐらを
つかみにかかった。
すずめだけじゃ飽き足らず、
美羽までも、と
大輝は言わんばかりの顔である。
「わーー!馬村!よせって!!
美羽まだ2歳だろ?!」
「うるせえ!人の娘、
呼び捨てすんな!」
なんかよくわからんけど
さらに盛り上がり、
カメはもっとやれやれ、と
手をたたいている。
10年経っていろいろ変わったけれど、
ここだけは変化ないのね…
とゆゆかは
半分は自分のせいであるにも関わらず
涼しい顔でこの光景を眺めた。
すずめはもう二度と
クラス会には美羽を
連れていかない、
と思った。
その後今度は
すずめと美羽がカフェを
出禁になり、諭吉がドーンと
落ち込んだのは言うまでもない。