貴女のことが好きでした。
しかし、月日を重ねるごとに、貴方が『日本』として色々なものを背負っていることを知りました。
何度も言おうと思いました。「私の心」は貴方のものだと。
けれど、貴方はきっと私との違いに気づいてしまうから。
貴方が傷つくところは、見たくなかったのです。
だから、貴方に抱かれた夜はとても嬉しかった。
貴方が国ではなかったら、貴方が人間だったなら、などとは言いません。
私の祖国は、貴方でしか、『本田菊』でしか、ありえないのです。
貴方が『日本』でよかった。私が人間でよかった。
貴方の国の人間でいられて、この国に生まれて、よかった。
貴方と会えて、よかった。
私は貴方と過ごした日々のことは絶対に忘れません。
煙管、大事にしてくださいね。
それから、とびきり素敵な恋をしてください。
今度は人間じゃなくて、国の方と。
誰かを愛することを恐れないで。
私はいつまでも貴方のことを、空の上から見守っています。
さようなら。
貴方のことが、好きでした。
紅葉
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ナターリヤの瞳からはぽたりぽたりと涙が零れていた。
「ナターリヤさん!?ど、どうしたんですか???」
「うるさいっ!目から汗が出たんだ!!」
「・・・・・・嫌な男でしょう?」
「本当にな!!」
ナターリヤはぐいと本田の袖をひっぱって、本田を抱きしめた。
「・・・お前が泣かないから、代わりに私が泣いてやってるんだからな!」
「ありがとうございます、ナターリヤさん。」
『誰かを愛することを恐れないで。』
彼女の声が聞こえる。
紅葉、私は今日も誰かを愛していますよ。
ありがとう。ありがとう。
そしてさよなら。
貴女のことが好きでした。
作品名:貴女のことが好きでした。 作家名:ずーか