感情
「おじいちゃん、おばあちゃん、
またねー。」
翌日、すずめの両親に見送られ、
3人は東京に戻る新幹線に乗った。
帰りの座席で、大輝は
「なぁ美羽、先生好きか?」
と聞いてみた。
「うん!ダーイスキ!!」
「…」
自分で振ったくせに、
また少しイラッとする大輝。
「父さん、美羽を
一番幸せにしたいんだけど、
どうやったら美羽幸せ?」
「しあやせ~?」
幸せの意味がよくわからないらしい。
「お父さん一番だよー。」
わかってないなりに
美羽にそう言われて
大輝は拍子抜けする。
「そうなのか?」
「うん!美羽、お父さん、
一番ダーーーーイスキ!!」
と言って美羽が大輝の頬に
チュッとキスをした。
また口元を隠して大輝は笑い、
「マジで!?」
と晴れ晴れした笑顔になった。
「うん!マジマジ。」
とそれも意味がわかってるのかどうか
美羽が言う。
「お父さんも美羽が
一番大好きだよ。」
と大輝も美羽の頬にキスをした。
「美羽うれしいっ!」
美羽は満面の笑みであるが、
すずめは
「え?え??」
「美羽が一番なの?私は?」
「ていうか、私の昨日の
100回分の愛の告白は??」
納得いかない様子である。
「オマエ途中で止めただろ。」
「だって大輝寝てたじゃん!」
「バーカ、寝てても
ちゃんと言ってるかどうか
わかんだよ。」
「嘘だぁ!私美羽より下?」
「娘とどっちが上とかないだろうがよ。」
「だってずるいじゃん。
そんな嬉しそうな顔しちゃって。」
「ちゃんと100回今言ったら
一番に思うよ。」
「何それ、こんな混んでる車内で
言えるわけないよ。」
「じゃあ、美羽がやっぱり一番。」
大輝は美羽の頬に
自分の頬をすり寄せる。
「美羽お父さんイチバン!!」
美羽も真似して言う。
一番から外されて
すずめは面白くない。
「お母さんだって
お父さんが一番だよ!」
すずめが美羽に張り合って言う。
「お母さんだってお父さんに
ほっぺたチュッてして欲しいよ!」
「バッ…オマエ、何言ってんだ?!」
あ!という顔で
すずめは真っ赤になる。
周りの人はクスクス笑っている。
「正直も場所選べよ…」
と言って大輝は顔を隠すが、
困りながらも
嬉しそうである。
「だって…」
「…ごめんなさい…」
とすずめは恥ずかしさで
小さくなった。
ホント何自分の娘に張り合ってんだ。
そう思いながらも
大輝を一番幸せにできるのは
自分でいたい。
昨日の大輝は
こんな気持ちだったのかな。
すずめはなんとなく
大輝の気持ちが
わかった気がした。
そろそろ東京に着くかという頃、
荷台の荷物を降ろすため
大輝が立ち上がった。
そして荷物を降ろして
再び座ろうとしたとき、
大輝はぐいっとすずめを
自分の方に引き寄せ、
「オレはオマエといるときが一番幸せ。」
と耳元で囁き、
すずめの頬にキスをした。
東京駅に着いて
降りるために
美羽を抱っこした大輝は
耳まで赤くて、
「お父さん、まっかっか~。
タコさんみたい。」
と美羽に言われていた。
すずめは大輝が落とした
急な爆弾に
「!?!?」
となり、誰も見てないか
キョロキョロした。
Uターンラッシュの車内では
誰もすずめ達に気を留めることなく
我先にと降りていく。
大輝の言葉に酔ったのか、
それとも人の多さに酔ったのか、
すずめは一瞬クラクラした。
「大輝が素直だと
心臓が持たない…」
そう思いながら
でもやっぱり幸せな気持ちで
帰路に着いた。