感情
絵本を読み聞かせながら
自分も一緒に寝てしまったのだろう。
すずめは絵本の上で
力尽きたように寝ていた。
美羽も同じく絵本を見る姿勢で
うつ伏せにスゥスゥ言っている。
大輝は二人に
タオルケットをかけてやった。
「押し込めた感情か…」
すずめが獅子尾を好きだった頃、
イチイチ獅子尾の言動に
顔を赤らめたり、
お守り買ったりする
すずめの姿を見て、
大輝はよくムカついていた。
アイツじゃなく
自分の方を見て欲しい。
オレだったら
あんなに辛い思いさせないのに。
ずっとそう思っていた。
今すずめと結婚して、
こどもも生まれて、
自分の方を見てくれているのに
なんでこんな気持ちになるのか。
結局辛い思いさせてないか。
そう思うと、ため息が出る。
すずめのお父さんの話で言えば、
やっぱりあの頃は、
相当我慢をして
すずめのそばにいたんだと思う。
そばにいたい、
でもほかの男を見てるのをみたくない。
オレは、すずめの
そばにいるほうを選んだ。
「ほかの男を見て欲しくない」
というわがままな感情を
ギュウギュウと奥に押し込んで
見ないようにしてたんだろう。
それが昨日のことで
出てきたのかもな…
自分といたほうが
幸せになれるなんて
思ってないけど、
自分が一番幸せにできる奴で
いたかったんだ。
「ほかの男を見るなよ。」
「オレといて一番幸せって
思っててくれよ。」
あの時言いたかった言葉を
大輝はポツリと口にしてみた。
「一番幸せに決まってる。」
すずめの声が聞こえて、
ビックリして声のする方を向いた。
「オマッ…起きてたのか!」
自分がさっき発した言葉を思い出して
大輝は真っ赤になる。
聞かれたくなかった…
するとすずめが真顔で言う。
「大輝といて私、幸せだよ。」
「大輝が一番好き。」
「一番大好き。」
「私を幸せにできるのは大輝しかいないよ。」
「世界で一番好きだよ。」
「結婚できてうれしい。」
「毎日幸せ感じてるよ。」
「ホントに?」
大輝は嬉しくて
顔がにやけるのを
パッと手で隠した。
「ホントだよ?」
昨日からひどく
イライラしていた気持ちが
スゥッとどこかに
消えていくのを感じた。
「よく考えたら、
自分の気持ちをその都度
伝えてないなって思って。
私も美羽見習わないと。」
すずめが言う。
「さっき聞いてたのか。」
「うん。父ちゃん、
たまにはいいこと言うね。」
「いい親父さんだよな。お義父さん。」
「母ちゃんにはよく叱られてるけどね。」
確かに。
「オレ、オマエのこと
幸せにできてる?」
大輝は突然そんなことを聞く。
「うん。幸せだよ。」
すずめは答える。
「もっと言って?」
「幸せ。大好き。」
「もっと。」
「大好き。」
「もう一回。」
「サイコーに幸せ!」
「あと100回くらい言われたら
満足するかも。」
と言って大輝は手を繋いできた。
クスクスとすずめは笑いながら
「幸せ。大好き。超幸せ。
大大大好き。満腹。夢みたい。
幸せ過ぎて怖い。…」
と言い続けるうちに、
スゥ…という寝息が聞こえてきた。
大輝はすずめの手を握ったまま
寝てしまったようだ。
「?大輝?寝たの?
まだ10回も言ってないよ?
ちゃんと聞いてよー。」
大輝は起きない。
寝顔は安らかだった。
すずめも本当に幸せな気持ちだった。