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刀剣男子たちと花の仮名の女審神者1 花の名前

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「そういえば、君の名前は?」
問われて、彼女は首を傾げた。
「審神者」
簡潔な答えに、別の方から呆れたような声が上がる。
「それはもう知っているよ。そうではなく、燭台切殿は君の本名を聞いているんだと思うよ、あるじどの」
歌仙の言葉に、刀たちの主は心でため息をついた。
「教えたいのは山々だけど…」
不思議そうな顔の燭台切と怪訝そうな顔の歌仙に申し訳ない気持ちで言葉を続ける。
「あなた達には私の名前を教えられないことになってるの」
「教えられない?」
「どうしてまた?」
主の言葉に燭台切は少し驚いた表情を浮かべ、歌仙の方は不信そうなものに変わった。
2人の表情を見比べながら、刀たちの主であり彼らを呼び出した張本人でもある審神者は、ごめんなさい、と頭を下げた。
その心にふつふつと怒りがわいてくる。
ろくな知識もなく知ろうともせずただ体面ばかり繕ったあげく余計なことばかりしてくれたあのお役所仕事爺ども、この役目が終わったら絶対に絶対に泣かせてやる。
そんなことを思ったせいでぎりりと食いしばってしまった奥歯の隙間から、静かな声が押し出される。
「規約、だそうよ」
いつになく低く不気味に響いた声に、刀達は口を噤んだ。
しまった、と気がついた時には向こうとこちらの間には微妙な空気が流れている。
ああ、またやってしまった。
反省しながら、若き審神者は力なく笑った。
「だから、呼ぶときは審神者か…今までどおり主か、好きな方で呼んで」
「決まり事なら仕方がないね」
そう言いながらも、燭台切の顔には戸惑いが浮かび、歌仙の方ははっきりと不満そうな表情を浮かべた。
「とはいえ、せっかくそこに咲いているのに、花の名を知らないままなのは少し寂しい気がするよ」
「そうだね…せっかく外見"は"いいのに少し勿体ないかな」
「外見は?」
言外に強調されたニュアンスに、審神者の眉がぴくりと跳ねた。
「燭台切光忠さん、いま接続詞を間違ったのでは?」
「そうだったかな?」
さらりと躱され、主たる審神者は黒スーツの姿を半眼で睨みつけた。
微かな余裕漂う完璧な微笑みがそれに答える。
穏やかで静かな、けれどどこか計り知れない深みを覗かせるその佇まいには、ほのかな色香さえ漂う。
このイケメンホスト野郎、と心で呟くに抑え、審神者は入れてもらったお茶を乱暴に啜った。
当の本人としても、できることなら名前で呼ばれたいというのが本音だ。
審神者と呼ばれ続けるのは役職で呼ばれているようで緊張するし、ましてや主と呼ばれることにもいささか抵抗があった。
どちらも四六時中仕事をしているような気分にさせられて、気分が休まらない。
そこでふと思い付くことがあった。
ポン、と威勢よく手を叩く。
「ちょうどいいわ、仮の名前を決めてしまいましょう」
「え?」
不意をつかれたように燭台切の目が見開かれる。
「今、ここでかい?」
さすがに驚いた様子の歌仙に、審神者はこくりと頷いた。
「間に合わせの名でもないよりあった方が便利だと思うし、決めるなら早い方がいいわ」
「本気かい?…まあ、言い出したのは僕たちだけど」
戸惑いを見せる歌仙とは対照的に、燭台切はあっさりと頷いた。
「わかった。それで、君はどんな名前がいいんだい?」
「なんでも」
「なんでも…って、あるじ殿」
先ほどとは違う形で呆れた様子の歌仙に対し、いいからと白い片手がひらひら踊る。
「自分の呼び名なんて考えるのも、めん…照れくさいし」
いま、絶対に面倒だと言いかけた。
刀の化身達の心に同じ言葉が同時に浮かぶ。
「あなた方で決めてくれると助かるわ」
けれど、主たる相手にさらりと言い切られ、2人はやれやれと苦笑しながら顔を見合わせた。
「そうだな…話の発端でもあるし、どうせなら花から決めたいよね」
澄ました顔で湯呑を傾ける主の姿を、金色の片目がじっと見つめる。
「鬼百合とかは、どうかな」
言われた瞬間、審神者は飲んでいたお茶を零しかけた。
「鬼っ?なんでわざわざ鬼がつく百合?というか、私のどこが鬼よ!」
気分を害した様子に、黒髪金目の整った顔立ちが惚れぼしそうな笑みを返す。
「いや、凛と真っ直ぐ咲いてる凛々しさが君らしいかなと」
「確かに。いかにも危なそうな崖っぷちに美しく、しかも平然として咲いてる様はまさに主殿にぴったりだ」
紫がかった華やかな色合いの歌仙がうんうんと深く頷く。
「…それ、褒めてるの?けなしてるの?」
思わず半眼になった審神者は燭台切の差し出した懐紙をやや乱暴に受け取った。
2人の刀の化身達は主の鋭い視線からそれぞれ目をそらす。
仕方なく、審神者は先ほどよりも穏やかに口を開いた。
「ともりあえず、鬼を取ってみない?」
「なら、普通に百合さん、かな」
「百合どの…いや、鬼が取れると少し違うような気がするよ」
「そうだね、少し荒々しさが足りないかな」
「荒々しさって…」
審神者は疲れたようにため息をついた。
「鬼百合がダメなら…」
「ボタン…ほど華やかでもないし」
「失礼ね!」
「藤はどうだい?」
「藤というには少し気品が足りない気がするよ」
「悪かったわね!がさつで」
「そこまでは言っていないよ」
「そうそう、あるじはそこそこ品はあると思うよ」
「うん、そうだね。ただちょっと…アレなんだよね」
「いま少しね」
「あれって何がアレなの!はっきり言いなさいよ!」
「椿…は違うな」
「そうだね…もっと茎がある感じがいいかな」
無視かい、という審神者の心のツッコミは当然ながら無視される。
「茎って何の話よ」
「茎は茎だよ。…桜はどうかな?」
「桜か…悪くはなさそうだけれど」
「…なに」
同時に審神者をじっと見つめた後、ないな、ないね、と刀たち声が被った。
「ちょっとそれどういうこと…!」
「なら…八重はどうだい?」「もしくは、十重、二十重とかね」
「それ、ちょっと…かなり、古臭いわよね…」
「そうかな?」
「なんでもいいって割にはうるさく注文を付けるね、あるじ殿は」
「なんでもとは言っていないし、それにどうせ呼ばれるのなら良い方がいいに決まってるでしょ」
軽く唇を尖らせた後
「…私は蓮華がいいな」
ぽつり、とこぼすように言うと審神者は遠い目をした。
「あの花は好きよ。咲き終わって枯れてしまった後でも、肥料として大地の良い養分になるんですって」
対照的に刀の化身達は少々微妙な表情になる。
「枯れた後…養分…」
歌仙は雅な所作で口元を覆った。
「なんだか物騒な話だね」
さすがに燭台切も苦笑いを浮かべる。
「でも、れんげ殿、か。悪くないんじゃないかい?」
「れんげ…どうだろう。あまりあるじらしさがない気がするが」
「僕はいいと思うんだけどな。…まあ、少し可愛過ぎるかもね」
「燭台切さん?」
じろり、と睨まれ燭台切はこほんと咳払いの真似をした。いかにも楽しそうな笑みが口元にちらりとした後、黒い手袋に隠される。
「他に何があるかな」
「水仙、なでしこ、うめ、菊、さざんか、つつじ、さつき、アジサイ、朝顔」
燭台切の問いかけに歌仙が歌を詠むのように滔々と花の名を上げて行く。
「彼岸花、女郎花、ススキ…」
「おみなえ…し…って…ススキは花でもないし」
既に突っ込む気力も失せたのか、力なく審神者はつぶやいた。