イカリング
「やる。」
と言って馬村が渡したのは
水族館の小さな包み。
「イカリングの方が
嬉しいかもしんねえけど。」
「水族館?また行ったの?」
「ショップだけな。」
包みを開けると、
シャラン、と銀色のものが出てきた。
イルカの輪くぐりをモチーフにした
ネックレスだった。
「イルカだ!」
「こっちがホントだから。」
「ははっ。イルカリングだ!」
早速すずめはつけようとするが、
金具が小さくてうまくできない。
「イタッ」
金具で指を挟めたらしい。
「何やってんだよ。
貸してみろよ。」
馬村もやってみるが
なかなか付けられない。
首元にずっと馬村の手が触れるので、
すずめは少し恥ずかしくなってきた。
「馬村…もういいよ。
うちでゆっくりするから。」
「待て…もう少し。できた!」
シャラン、と首から下げた
ネックレスが、制服の下で揺れた。
「かわいい…」
頬をピンクにしたすずめが、
「嬉しい!ありがとう!馬村。
大事にする。」
と馬村を見て笑った。
馬村はたまらずキスをした。
「また…!」
「なんだよ、そんな顔するから
したくなったんだよ。」
すずめはさらに真っ赤になった。
「誕生日おめでとう。」
馬村が言う。
「あ…ありがとう。」
すずめは去年とは違う、
温かい気持ちでいっぱいになった。
「イカリングの味がするな。」
馬村はそう言って、
「さっき食べたから…」
「テストが終わったら
もっとちゃんとしたの
食いに行くか。」
とベンチから立ち上がった。
「テスト…そうだった…」
「オマエ忘れてただろ。」
「嬉しくてもうテストどころじゃないよ…」
すずめもそう呟いて立ち上がり、
手を繋いで二人は帰った。
その日のすずめはテスト勉強しながらも
思いついては
イルカのトップを触り、
翌日のテストも散々だったのは
言うまでもない。