終止符
ある日、出勤したら
バイトが早番だったらしく、
うちのCDを借りて帰る
馬村くんがいた。
私が立っているとこではなく
店長(かなりおじさん)が立つ
レジに並んでいた。
あくまで女を避ける気なのか…。
くそう。
彼女がいるらしい話も
聞いたことがない。
ホモ…ではないよね。
男が好きな風にも見えない。
無愛想だけど、
優しくないわけじゃない。
一度どうしても手の届かないとこを、
通りすがりに、「ん。」と
ほとんど喋らずしてくれた。
「ありがとう。」
と言うと、
「いや…」
と言ってまた自分の業務に
戻っていった。
どうしたら笑うの?
つん!と思わずつついてみた。
「おわ!」
馬村くんから不思議な声が出た。
「何するんすか!」
あ、ちょっと耳が赤い。
「いや、笑わないから…
接客業なのに…」
「…すみません。
でも愛想笑いとか
オレ無理なんで…」
「ま、しょうがないっか。」
先輩からの指導と思ったらしい。
でもやっぱり笑わない。
ー彼女にならー
笑顔を向けるのだろうか。
いつの間にか、
それが自分だったらいいのに
と思っている自分に気がついた。
「店長電話です。」
「あ、わかった。
日向君代わりにこっち入って。」
「あ、ハイ。」
店長に電話が入り、
私が代わりにレジに立つと
馬村くんがなぜか焦る。
「?私じゃ嫌?」
ちょっとムッとして
聞いてみた。
「いえ…そんなんじゃないっす。」
馬村くんはそう言いながら
横を向いていた。
この~~~。
ちょっとは愛想よくしろ!
笑え!
ピッピッ
CDのバーコードを
レジに通していく。
「ん?き○まろ?」
思わず声が出た。
洋楽のCDの隙間に、
き○まろの
新作CDが挟まっている。
えっ馬村くんが?!
き○まろ?!
イメージと違いすぎる!
間違えて持ってきた?
わけないか。
ブッ
あまりのギャップに
思わず笑ってしまい、
「あっごめん!」
慌てて私は馬村くんの方を向いて謝る。
カァァァァ!!
と音がしたかのように
みるみる馬村くんの顔は
耳まで真っ赤になり狼狽えた。
「いや…」
普段涼しい顔をしている彼が
真っ赤になって照れる姿に
完全に私はやられてしまった。
やっぱり彼が好きだ。
そう自覚してしまった。