終止符
そこにウィーンと
ショップのドアが開いて、
女の子が入ってきた。
「いらっしゃいませ。」
私は顔も見ないで声をかける。
馬村くんの顔が
そっちを向いて
一瞬顔をほころばせた。
えっ、今
馬村くん、笑った?
笑えって心の中で言ったの、
効いたのかな。
「駅で待ってるんじゃなかったのか?」
馬村くんが声を向ける方向をみると
同じ歳くらいの女の子が近づいてきた。
さっき入ってきたお客さん?
ピッピッと気になりながらも
私は業務を続ける。
「大輝が遅いから
探してんのかなって。」
ん?大輝?馬村くんのことか。
「あっき○まろ!あったんだ!」
「オマエがこんなん借りるって言うから
オレが笑われただろうが。」
文句を言いながらも
しょうのないやつだな、という風だ。
「まぁまぁ。」
「まぁまぁじゃねぇよ。
今度から自分で借りろよ。」
そう言いながら馬村くんは
優しく包むような顔で
こちらの存在など
忘れているかのようだ。
馬村くんがこんなに喋るのも、
優しく笑うのも、
私は初めて見た。
「以上四点で1512円です。」
「馬村くんの彼女?」
おそるおそる彼に聞いてみる。
妹とか言ってくれるのを
願いながら。
でも
「あ…まぁ。」
と言って
彼はまた赤くなりながら
支払いを済ませる。
隣の彼女がペコッと頭を下げた。
ああ、そうなんだ。
彼女…いたんだ。
彼女にはそんな顔で笑うんだね。
「き○まろだけ
返却期限が違いますので
ご注意ください。」
私はなんとか平静を装い、
事務的な言葉を続ける。
馬村くんはCDの入った袋を受け取り
「お疲れ様っした。」
と頭をペコリと下げた。
そして二人は並んで
ショップを後にする。
ウインドウから見える
彼の表情は、
この三ヶ月一度も
見たことがないくらい、
優しく、
彼女を愛おしそうに
みつめていて、
横でき○まろのCDを持って
はしゃぐ彼女が
すごく愛されているのだと
わかった。
恋を自覚した
その日のうちに失恋とか。
しかも彼女を愛しそうに見る
彼の顔が好きとか、
どんだけ不毛なんだろう。