終止符
でもこの一件以来、
私は割と彼と
話せるようになった。
「彼女がき○まろ好きなの?」
「はぁ、アイツ、
ちょっと変わってるんッス。」
「でもそんな彼女のことが
好きだって顔してるよ。」
そう言うとまた馬村くんは
顔を赤くし、
「はぁ…」
と照れる。
彼女の話だと
割と受け答えするように
なってくれたが、
その度に私の胸は
ズキンズキンする。
もっと知りたい。喋りたい。
でも彼女の話は聞きたくない。
知れば知るほど、
彼女のことを
どれだけ愛してるかが
伝わってきてしまう。
もうダメだ。
そう思って、
ある日のバイトで、
一緒になった時、
「好きです。
彼女のこと好きなの
よくわかってるけど。」
思わず言ってしまった。
「えっ…」
馬村くんは私のことを
彼女のことを気兼ねなく話せる
唯一の女性スタッフ、
と思っていたらしく、
しばらく混乱して固まっている。
「ごめんなさい。
日向さんの気持ちに
応えることができません。」
「うん…わかってる。
ちゃんとフッてくれて
ありがとう。
ごめんね、困らせて。」
私は翌日バイトを辞めると
店長に伝えた。
「やめるんすか。」
「うん。ごめんね。」
「だったらオレがやめますから…」
「違うの。フラれたから
辞めるんじゃないの。
外国いくの。留学。
でも好きになっちゃって
決心鈍くなってたから、
だから告白したの。
もう何も残らないように。」
「そっ…すか。」
嘘じゃない。
彼と居たいがために
留学やめようか、
とまで思い始めてしまっていた。
不毛なのに。
自分だけに見せてくれる
その顔をもっと知りたいと
思ってしまっていた。
見せる顔は、全部
彼女が愛しいという
その顔だったけど。
「ありがとう。
これで未練なく旅立てるよ。
彼女と仲良くね。」
「はい…」
そう言って私は
ショップを去った。
あれから五年。
日本に帰ってきて
あのショップの前を通ると
もう彼はいないのに
またズキンと痛む気がする。
でも一番最初に来てしまった。
すると、「日向さん?」
懐かしい声が聞こえた。
「え…馬村くん…」
「日本に帰ってきてたんすね。」
変わらない…
卒業してバイトを辞めても
このCDショップには
時々来てるらしい。
また恋心が
ぶり返しそうになったとき
横にあの時の彼女がいて、
彼女のお腹が大きいことに
気がついた。
「えっ…子ども?」
私はまた思わず声をあげる。
「あ…卒業してすぐ結婚して。
秋に生まれる予定です。」
「そうなんだ。おめでとう。」
また平静を装う私。
帰国したら
もしかしたら彼女と
別れているかも、
なんて一瞬でも思った自分が
恥ずかしくなった。
ずっと変わらずに
愛し続けてるんだね。
彼女を。
そしてこれからもきっと
その優しい笑顔で包んでいくんだね。
あの時終わらせるために
告白したのに
ぜんぜん終われてなかった。
あの顔を向けてくれるのが
私ならって、少ない確率に
かけようと思う気持ちが
どこかにあった。
でもこれでダラダラ
書き連ねてた文章に
終止符を打てる。
そんな気持ちになって、
「じゃあ、お幸せに。」
と心から言えた。
手を振ってわかれた。
彼女も手を振ってくれた。
たぶんもう二度と会わないだろう。
さよなら、
私の不毛な恋。