トランキライザー すずめside
名前を呼ばれて
またギュッと抱きしめられた。
「今…名前…」
すずめって呼んだ?
「絶対今顔見るなよ!」
顔は見えないけど、
耳まで赤いのはわかるよ…
それに、心臓がドクンドクン
すごく速く鳴ってる。
でもこの音もおちつく…
「うん。見ない…」
「…大輝…」
私も呼んでみる。
恥ずかしいっ!
今さら感満載だ。
「もう一回。」
「え?名前?」
「うん。」
リクエストされて
もう一度名前を呼ぶ。
「…大輝?」
またギュッとされた。
何を不安になってたんだろう。
馬村は…大輝は、
こんなに温かいのに。
もっとずっと
触れていたいなぁ…
ずっと抱きしめてて
ほしいなぁ…
「オマエ連れて帰れねえかな。」
そう言われて、
エスパー?!と思って
ビックリした。
家まで送ってもらって
おじさんに案の定怒られた。
一緒に怒られちゃって
馬村に悪かったな。
今度会うときは昼間で。
でももっと触れてたい。
触れてほしい。
そんなのおかしいかな?
いつも一緒にいたときは
そんな風に思ったこと
なかったのに。
「まむ…大輝!」
「ん?」
「なんでもない。
おやすみ。」
こんなこというの、
やっぱり変だよね。
「おやすみ、すずめ。」
また耳まで赤くして
馬村は帰って行った。
心がホカホカする。
でもまたすぐ会いたくなる。
馬村は
麻薬みたいだ。
この気持ちは
どうしたら収まるんだろう。
一緒の大学だったら
そうは思わなかったのかな。
一瞬そんな考えがよぎったけれど、
「ま、そりゃ無理だね、うん。」
そう思い直してしまった。
私は馬村が自分の名前を
呼ぶ声を反芻しながら
いつもより暖かく感じる布団の中で
眠りについた。
作品名:トランキライザー すずめside 作家名:りんりん