ある日の相談
休みが明け、デスクで仕事をしていると頭を掻きながら官兵衛がやってきた。
「おはよう、半兵衛。その……」
何か言いたげだったが、それを切るように挨拶を返した。
「おはよう、気分はどうだい? 飲みすぎ注意だよ」
目線を合わすことなく正面を向いて仕事に集中しようとしている半兵衛の耳元で、官兵衛が礼を言った。
「柔らかかったぞ、半兵衛。ありがとさん」
にやりと口角上げて笑うと、また頭を掻きながら立ち去っていった。
――か、官兵衛君っ!
一人赤い顔で固まっている半兵衛であった。軍師の策に一本とられたか、と後に苦笑した。
「官兵衛……」
「ん? なんじゃ、秀吉」
上司である官兵衛よりも一回り大きな男、豊臣秀吉が心配そうに声をかけた。
「半兵衛はどうしたのだろう?」
真っ赤な顔でブツブツ口を動かす半兵衛を遠めに眺めている。
「さぁな、聞いてみたらどうだ?」
少しむっとした表情で彼を睨み、
「我が聴いたところで、簡単に理由を云うわけがないであろう」
不機嫌そうに言い返した。
「それもそうだな。しかし、小生も分からんのだ……。はははっ」
クスクス笑いながらデスクに向かう官兵衛は一日ご機嫌だったようだ。
――今回は小生の勝ちだな。半兵衛よ、フフ。
〈完〉