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靴ベラジカ
靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第三話「ジュネーヴ・ルビー」

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 「話よりピンピンしてるじゃねえか、フェリクス」
見ず知らずの相手に不躾な口である。 名指しされたフェリクスは小さく舌打ちし、乱暴に野球帽を引き剥がす。男の頭頂には白い猫耳の様なもの。 帽子から何かが零れ落ちる。 猫耳の穴がある筈の部位からは、先端にかけて桃色がかる奇妙な触手じみたものが生え、金の輪が中間で浮遊している。 トーリスはその銀髪頭に注視したが、カチューシャの類は見当たらない。 赤紫の瞳に白けた同情を向け、フェリクスは雑多な返答を投げ返す。
 「ギルべぇ… 突然出てくんなっつー」
露骨でないが、言葉の綾に綯い交ぜの嫌悪。 悪戯な笑いを上げ、白い猫耳頭は素知らぬ振りで往なす。
 「ケセセ… オイ、なんだ? ジェムの濁りもなきゃ、ヤバいグリーフシードひとつナシかよ。 俺様のおまんま食い上げだぜ」
 「お前の腹なんか知らんし。 一生グリーフシード抜きにしてやんよ」
険悪かと思えば冗談交じりの軽い応答。 今までの人生の内でも相当な無礼者に出くわした不快感と、友達の友達に会った様な疎外感に中てられ、温和なトーリスの視線も怪訝なものに変わっていく。
 「誰なんだよ、この人」
金髪の少年は不機嫌に視線をギルべぇ、そう呼んだ男に少し向けて言う。
 「アニメとかの魔法少女にひっついてるアレだし。 マスコット」
 「どこが?」
トーリスはギルべぇを改めて注視する。 やはり、何度見ても、頭の猫耳ぐらいしかマスコットらしい所は無い。当のギルべぇは自慢げな態度である。 何処から湧く自信から、そうしていられるのかは全く分からないが。
 「俺様は小鳥のように可愛いんだからマスコットに相応しいだろ? 誉めろ! 称えろ! 跪けー!」
 「お前が可愛いとかまじありえん! 魔女に敏感なのしか使えんし」
あけ透けな、しかし全否定でもない、ほとんどの否定にギルべぇは固まった。 にやついた口元が引き攣る。
 「まー、役に立ったらマスコット(えんぎもの)なんて呼ばんし」
靄が晴れた顔でとどめの一言。 フェリクスが好意的に思っていないのは重々理解したが、流石にギルべぇが不憫に思えて来る。 何か助け舟、相応しい話題が無ければ、何か気を逸らせる話題。 思索したのち彼は尋ねた。
 「あー、俺達以外に魔法少年か、魔法少女はいないの? …ですか」
 「ときわ町だけでも沢山いるぜー! 俺様がいま正に探知しているだけでも、ローデリヒ・エーデルシュタイン。 ヘーデルヴァーリ・エリゼベータ、あとバッシュ・ツヴィンクリ…」
その一声を耳にした途端猫耳が躍り、ギルべぇは得意げに指を折りながら名前を朗々と読み上げていく。面倒臭い奴だと感じながらも、覚えのない名前を聞き、トーリスは新たにひとつ尋ねた。
「バッシュ・ツヴィンクリ?」
それは人の名前だぜ、とギルべぇは言いかけたが、フェリクスの冷ややかに憐れんだ視線を目に口をつぐみ、
 「腕利きの魔法少年だぜ。 もう何年も前から金か相応の対価で、いろんな奴の、いろんな頼みを叶えて暮らしてる」
比較的まっとうな答えを出した。 やや真剣さを増した口調でフェリクスは問う。
 「何年もなん? そいつ、名前も聞いた事ないし」
 「何年もだぜ。 当然俺様の、慈悲に満ちた助けもあって長くやってるけどな。 それだけ魔女と戦った経験もあるし、魔法も強いぜ」
トーリスの良く知る、慈悲深い女王の態度になった親友。 フェリクスが満足した時か、心から納得した時しか示さない態度である。 彼には面倒臭い不良の印象しかないが、これでも信頼は置ける存在なのだろうか。
 (こいつは絶対嘘つかんし。 むしろ嘘つけないっつーか)
一応気を遣ってか、フェリクスは彼に向け小声で補足する。
少ない話題だけで親友が納得する程の、凄腕魔法少年。 そんな人物が自分達の十字軍に仲間として加わってくれれば、きっと間違いなく皆を助けてくれるに違いない。 報酬というのが気がかりだが、ローデリヒ達いわく貴重だと言うグリーフシードで十分の筈だ。 魔女との戦いで役に立てない劣等感と不甲斐無さが、彼の脳内に少々見立ての甘いスカウトの草案を紡ぎ出す。 顔すら知らない相手が、依頼とは言え不躾な頼みをそうやすやすと引き受ける筈も無い。 それだけ彼は、新しい居場所から摘み出されるかも知れない悪夢に怯えていた。
 「その人、仲間に出来ないかな。 バッシュさんの居場所って、心当たりない?」
 「ハァ!? 会った事も無い奴と? まじありえんよ。 敵にでもなったら超厄介だっつー」
彼が怒る理由は見当もつかない。 人見知りが激しいのは重々承知だが、町の平和に関わる一大事だというのに。
 「? 人手が増えて不都合があるの?」
フェリクスから言葉は返ってこない。 スカウトの案を、明日の勉強会で皆に伝えてみよう。 親友も、いつもいつも、新しい出会いを避けて通るからろくに友達が増えないんだ。 運良く仲間に出来たら、長く付き合う新たな友達候補になるかもしれないのだから。
生真面目な面持ちで周囲を伺うように、魔法少年達の何かしらを探るギルべぇ。 やがて今日最上の自慢げな態度で少年達に応える。
 「案外今日にでも会えそうだぜ? すぐ傍に居る」
目当ての人物は彼らが想像していたよりも近くに居るらしい。 なら多少時間をかけてでも、本人に一旦会ってみよう。 人手を増やすのならなるべく早い方が良い。
 「本当? 会ってみたいけど、何処に居るか見当つく?」
 「ん、その必要はないだろ」
顔を見るに、親友も想像していなかったらしい意外な受け答え。
 「バッシュなら今、ローデリヒの傍に居るぜ」