学園小話2
青 ……卒業後の喜八郎と滝夜叉丸
空を見上げれば、蒼穹が広がっている。
青い、何もかも吸い込んでしまうような、高くて大きな青い空。
子供のころから変わらない、それは唯一の風景。
「どうかした?」
立ち止まって空を見上げる相棒に、四歩目で振り返る。
相手を振り回す五回のうち四回は、こちらの役目。数少ない五回に一度は、彼の我侭。今日はそんな気分なのかと問えば、空を見上げたままの彼は、いつまでたっても綺麗な指で天を指す。
「雲ひとつない。綺麗な空だ」
「空を見てても腹は膨れないよ」
「七松先輩みたいなことを言うな」
鈴の音を転がすように、愉快に笑う。こっちはずいぶんと懐かしい人の名前を聞いて、いささか戸惑うというのに。
「今日は子供返りの気分?」
五歩戻って、背後から抱きついてやる。昔、まだ学園ど暮らしていたとき、よくこうしたものだった。彼はいつも、振り返ることなく突っ走る人だったから、背中から引き止めるしかなかったのだ。
「…そうだな。童心を、思い出したのかもしれない」
胸に回された手に軽く触れ、彼は笑う。その記憶がとても綺麗なものなのは、この笑顔を見ていればわかる。もちろん自分にとっても、あのころの記憶はとても眩しい。
「よく、こんな空を見上げていたんだ。……もう走れないと寝転がって見上げた空は、いつもこんなに青くて」
そう、青い空を映していた瞳が、流れるときを惜しむかのようにゆっりとゆっくりと伏せられる。
「……青くて、私は好きだったんだ」
振り返って、彼は笑む。それはもう大人の微笑だった。