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学園小話2

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祭りの準備 ……体育委員会


 お祭り好きと一言で片付けていいものかどうか悩むところだが、学園長先生の思いつきで振り回されるのはもはや珍しくもなんともない。
 だから、そうなったら楽しんだ者勝ちなのだが、前を行く体育委員会委員長の尻にもし尾っぽがあったのならば、全開で振られているだろう。

「おーい、滝夜叉丸。いくぞ!」
「いつでもどうぞ」
 合図とばかりに大手を振って、小平太は金吾たちを引き連れて藪の中へ入っていく。ひとり外で待つ滝夜叉丸の手には、鈍く光る戦輪がある。
 本来、こういうもの相手に使うものではないのだが。自慢の武器の使い道に溜息が出そうになる瞬間、藪が大きく揺れる。
 判断は一瞬。
 放った戦輪が緩やかに弧を描き、藪から飛び立った雉の喉を掻き斬ればわっと歓声が上がる。
「……先輩、そろそろ場所を変えないと」
 手元に戻ってきた戦輪の血を払うと、藪から戻ってきた小平太に声をかける。すでにここの藪で狩った雉は10羽になる。体育委員会に振られたノルマは10羽。これで学園に戻っても、なんら問題はない。
 しかし、目をキラキラさせているこの委員長がこれで切り上げるとは思えないし、低学年を多く抱える用具委員会や保健委員会がノルマ分確保して戻れるとも思えない。であれば、ここは花形の体育委員会がノルマ以上確保するのが道理というもの。
「そうだな……だけどこれ一回持って帰んないとなぁ」
 手際よく血抜きを始めてはいるものの、10羽の雉を抱えての移動は確かに辛い。
 一度皆で戻りますかと滝夜叉丸が目で問えば、ちょっと考えた風の小平太はよしと手を打つ。
「四郎兵衛、金吾。これ持って帰っておばちゃんに渡してくれ」
 はーい、といい返事はふたつ分。ひとりのえー、という不満げな声を上級生2人は黙殺する。
「重いから気をつけろよ」
「大丈夫ですっ」
 枝に吊るしておいた雉を籠に入れ、二人に背負わせる。その重さによろめく身体に、滝夜叉丸らが慌てて支える。
「先輩、三之助も行かせた方が……」
「ん〜、まだあと20羽は獲らないといけないんだ。三之助まで行かせると困るだろう?」
「なんでそんなに」
 確かに多少、多めに獲らないととは思っている。しかし20羽は多すぎだ。横を見れば三之助も頷いてみせる。
 だが、小平太はいつもの調子で笑って見せた。
「会計と生物以外の分、引き受けたんだ」
「なんでそんな面倒なことを……」
 三之助が頭を抱えて呻く。言いたくないが、そこまで想定してないから、戦輪がもつかどうか。頭が痛いと滝夜叉丸も眉間を揉む。
「だって、あいつらは腕がないからなぁ。用具は低学年ばかりだし、作法の罠は鳥向きじゃないだろう? だから、学園で祭りの準備だ」
「会計と生物は別扱いですか」
「生物は犬がいるし、会計は田村が撃ち落すだろ?」
 ぼやく三之助に向かって、また笑う。

 溜息を最初に吐いたのは一体誰か。
 屈んだ滝夜叉丸が、獲物を背負わせたままの金吾と四郎兵衛の頭を撫でる。
「お前たちも学園に戻ったら、風呂に入って祭りの準備を手伝え。こっちは私たちで片付けるから」
 はい、とまたいい返事が戻ってきて、二人は並んで駆けて行く。
「ずるいっすよ」
 またもぼやく声に、小平太がわざとらしく頭を撫でる。
「お前は子ども扱いされたいのか?」
「……いや、それは嫌ですけど」
「だったら、手伝え。お前まで祭りの飾りつけに精を出していたら、体育委員会の名折れだ」
 ああいう可愛らしいことは、子供たちに任せればいい。
 いくぞ、と走り出す小平太に、滝夜叉丸と三之助も従う。
「しかし、あと20羽か……」
 それだけとって背負って帰れば血の匂いが染み付くな、と滝夜叉丸はひとりごちて溜息を零す。
 それを横で聞きながら、うちが他の委員会の肩代わりをしたこととか、金吾たちを先に戻した理由にようやく納得して、三之助は笑った。



作品名:学園小話2 作家名:架白ぐら