温泉旅行 前編
「とりあえずそのへん
ウロウロしてみるか。」
宿の周辺は温泉街で、
お土産の試食などを
たくさんしていた。
「オイ、土産まだ買うなよ。」
「えっ、なんで?」
「明日もあるんだから
荷物増えるだろ?
帰りでいいよ。」
「明日…」
「? どうかしたのか?」
「いや、明日まで
ずっと一緒に
いれるんだなぁって
思ったら夢みたいで。」
すずめがかわいいことを言うので
大輝はキュンとした。
うーヤバい。
夜まで待てそうにない。
でもまだ夜くるな、
と思う自分もいる。
亀の歩みで育んできたせいか、
付き合って3年経っても
まだまだ二人は
新鮮な気持ちのままだった。
「オイコラ、
まだ食うのかよ。」
試食を手当たり次第
食べてすずめは
満足している。
「温泉街、楽しいね!」
「夕メシ、入らなくなるぞ。
伊勢海老と鮑食うんだろ?」
「そうだった!楽しくてつい…」
あれこれ見て回り、
お土産の目星もつけ、
また宿に戻った。
夕食は部屋食で、
二人でゆっくり食事ができた。
「伊勢海老!鮑!!刺身〜〜!!」
めきめきと細胞が喜んでる、
すずめは魚介類を食べると
そんな気がしていた。
「私、前世は魚かもしれない。」
ニコニコと喜ぶすずめを見て
「は? 何言ってんの?」
と悪態をつきながらも
大輝も自然に笑っていた。
旅館の夕食は、
味ももちろんだが
量もすごく多かった。
「う…苦しい…」
すずめはボスン、と
ベッドにたおれこみ、
少し横になった。
「土産物屋で食べ過ぎるからだ。」
「ううん、そうかも…」
ホントに食い意地張ってんな。
とブツブツ言いながら
大輝はトイレに立つ。
夕食も下げられたし、
ベッドだから布団を
敷きにくることもない。
これからゆっくり
温泉に入って
二人の時間が過ごせるな、
と思って出てみると、
スゥスゥ、と
横になったすずめから
あらぬ音が聞こえていた。
「まさか…」
「オイ? すずめ?」
揺り起こすも
「うぅん、もうお腹いっぱい…」
と寝言を言って
完全に寝ている。
「温泉も入らずに?
マジかよ?!」
プールではしゃぐすずめを見て
嫌な予感はしていたが、
ホントに寝てしまうとは
思わなかった。
「なんだよ…」
ガッカリ感がハンパない。
「うん…大輝ぃ、すごいね。」
まだ寝言を言って
夢の中ではすずめはまだ
旅行をしてるらしい。
「はぁ…オレは待ちの星の下に
生まれたのかな。」
すずめの幸せそうな寝顔を見て
大輝はため息をついた。