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甘くない恋の味

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忍術学園内の林を抜け、後ろから誰も来ないのを確認してようやく団蔵は足を止めた。
すっかり息は上がっている。
何しろクラスで二番目に足の速い三治郎が追いかけてきたのだ。
建物内を走り回るより方向感覚を無くせる林の中をあっちこっち逃げることで、俊足だが方向音痴な三治郎と彼と一緒に追いかけてきた兵太夫をまくことができた。

「…はぁ。

団蔵は林を出たすぐそばの廊下にもたれかかった。
どの学年の長屋の廊下かわからない。
だが無我夢中で逃げ回った団蔵にそれを考える余裕はない。
そして目の前に、一人の上級生が立っていることにも気付かない。

「団蔵!
「えぇっ…!

低くて怒気の混じったような、よく聞く声。
ゆっくりと顔を上げるとそこには

「し…!潮江文次郎先輩ぃ!!

廊下にもたれかかる団蔵を仁王立ちで見下ろすのは、六年い組で団蔵とは同じ会計委員会に所属しその委員長を務める潮江文次郎であった。
常日頃会計委員会で、委員会の仕事以外の活動で(団蔵から見れば)必要性の感じられない鍛錬を吹っかけてくる委員長に、へばっている姿を見られたのだ。
これは鬼のお説教と罰を免れられないと団蔵は思った。

「バカタレ!!顔を伏せて周囲の様子に全く注意を置かず、俺が声をかけるまでここに俺がいたことに気付かないなど!鍛錬が足りんわ!!
「ひえー!すみませんー、潮江せんぱーい!

予想通りの怒号を浴びせられ、反射的に背筋までしゃっきりと伸ばして団蔵は謝った。

「休み明けからはしゃぎやがって。休み中にガールフレンドでもできたか?

ぎくっ!

少し違うが正解をいきなり当てられて団蔵は何も返事ができなかった。
否定をしなかった、つまり肯定したのと同じように伝わる。

「何だ、本当に女なのか。
「ち、違います!
「隠すな隠すな。お前はすぐ顔に出る。バレバレだぞ。
「わー!だから…!
「何だ。俺に逆らう気か?
「そうじゃありません!…はしゃいでません、むしろ困ってるんです。

団蔵は文次郎と向き合う。

「ガールフレンドではなく、好きな子ができちゃって、でもその子は仲のいい友達とそっくりで、友達は男で、そいつといると…ドキドキしちゃって、今までみたいに過ごせなくなりそうで……。こんな自分がイヤなのに、どうしても女の子と友達のことばっかり考えちゃって…。

段々声が小さくなっていく。
自分でも何故ここまで心が苦しいのか、庄左ヱ門を見ると落ち着けないのか、自身のことであるはずなのにわからないのだ。

恋をするのは
初めてだから。

「ふむ。団蔵。
「はい。

文次郎はすーっと息を吸い込み、無駄に大声で叫ぶように言った。

「そんな時には鍛錬!だ!!一時の迷い、雑念、邪念、余計なことなど忘れてギンギンに鍛えまくれ!!
「ひー!結局そうなるんですねー!

一度は真剣な顔付きになった団蔵だが、涙目で縮み上がることになった。
文次郎は満足したのか豪快に笑いながら姿を消した。
普通に立ち去ればいいのに、学園一忍者している彼の体質上仕方ないのだろう、飛び上がり屋根に上り駆けていった。
先輩がいなくなってすぐに背後で自分を呼ぶ声がした。

「だんぞー。
「あ、喜三太。

一年は組の喜三太がこちらに向かって手を振っている。

「団蔵ー。休み前にやった漢字のテストのことで、土井先生から話があるから来いって。
「漢字テストぉ!?

(あー!あのテストかぁ、全然わからなかったんだよな~。

「それでねー。ぼくも呼ばれてるから、一緒に行こー。
「うん。わかった。

呼び出しをされたのにさほど反省しているようには見えない喜三太のもとに走っていくと、彼は先程団蔵と文次郎がいた廊下の辺りをじーっと見ていた。

「ねえ団蔵。さっき、潮江先輩と話してたの?
「そうだけど。
「はにゃ?
「どうしたの?
「あ!何でもない。そんじゃ土井先生のお部屋行こ。

(はにゃ~。さっきの潮江先輩、五年生の制服着てたように見えたけど。団蔵、気付かなかったのかな~?…まあいっかー。



「こんな簡単に騙せるとは。庄左ヱ門の気持ちもわかるような気がする。

団蔵達がいなくなった長屋の廊下に現れたのは、団蔵と話していた文次郎だった。

「潮江先輩、お顔お借りしましたよ~。

顔に手を当てると、潮江文次郎の仮面が外れてその下からは不破雷蔵の顔が現れた。
鉢屋三郎の変装だったのだ。
団蔵の口から気持ちを聞き出すために彼の委員会の先輩の顔を拝借した。
あの無駄に存在感のある六年生の顔だと、服装が五年生でも変装だと気付かれにくい。
それが走り疲れてへばって注意力が低下している下級生ならば尚更だ。

「さあて…。

三郎は顎に手を当てて二人の忍たまを思い浮かべる。
一人はたった今話していた団蔵、もう一人は自分の委員会の後輩。

「片や好きになった娘が友達と似ていることに悩み。片や友達が変装を見破れなかったことに落ち込み、友達の感情にはこれっぽっちも関心がない。

二人が元の仲良しな友達に戻るのか
または、すれ違い続けるか
または…

「団蔵くん。庄左ヱ門を攻略するのは甘くはないぞ。

どんな道に転ぶのか、楽しみだ。



おしまい
作品名:甘くない恋の味 作家名:KeI