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刀剣男子と花の仮名の女審神者 近侍の不在

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「…編成の組み換えによる効率化の数値算定終了。あとは、資材の変動確率予測だけ…あっ!」
慣れない紙面と格闘していた審神者は、慌てたように顔を上げた。
「どうなされましたか?ぬしさま」
文机の向こうで、驚いた小狐丸が動作を止める。
その手元から拾い集めていた巻物が零れ落ちた。
「資材のデータ、写し取っておくのを忘れていたのよ!更新されちゃう」
慌てたように答えながら、審神者の手が宙を撫でた。
「時間ギリギリ…ええい、間に合わせる!」
一見すると何もないはずの空間を、白い手が踊るように舞う。
審神者側からは組み込まれたプログラムにより操作盤とスクリーンが浮かび出て見えている。けれど、その機能がない他の刀剣男子たちには何一つ見ることは出来ない。
端から端へと動く手の動きを、小狐丸の赤い瞳がじっと追った。
「ふむ。いつ見ても摩訶不思議なものですな」
「あはは、そうかもね。あなた達にも使えれば手伝ってもらえるのに」
「もしできたとしましても、使いこなせる気がいたしませぬが」
「そう?でもまあ、システム系は相性の良し悪しがあるのも確かね」
会話をしながらも、審神者の目は何もない空間のどこかに集中している。
手元にはいつ間にか筆があり、忙しく何かを書き出していた。
主の姿を眺めながら、小狐丸は『器用ですな』とつぶやいた。
「よし、間に合った!」
持っていた筆を放り投げるようにして置くと、審神者はふーっと大きく息を吐いた。
「それはようございました」
「ええ、危ない所だったわ。間に合って良かった」
「では、こちらも後始末を終えてしまいましょう」
丁寧な物腰で言い置くと小狐丸は片づけを再開した。
「お願い。さて、残るは清書か…」
嫌そうなものを見る目でまっさらの巻物を眺めた後、審神者は諦めたように作業に取り掛かった。
普段の倍は慌ただしい室内をよそに、庭園では鶯がホーホケキョとのどかに歌っていた。
「はー…終わった…」
何とかその日の報告書をまとめ上げた審神者が、ぐったりとしながら机に突っ伏すころには、巻物で溢れていた部屋もきれいになっていた。
「お疲れ様でございました」
「ありがとう、貴方もね。手伝ってもらえて助かったわ」
主のねぎらいの声に、本人が言うところの毛並みが会釈をするように下げられた。
「なんのこれしき。他に何か御用はございませぬか?」
「とりあえず、大丈夫。少し休憩しましょ」
そう言ってすっと顔を上げて視線を動かした後、審神者は口を開きかけ…はっとしてその口元を引き締めた。
「ぬしさま?」
明らかにおかしい挙動に不思議そうな声がかけられる。
「ごめんなさい。…お茶でも淹れましょうか」
先ほどよりだいぶトーンを落とした声音に、小狐丸の目がわずかに細められた。
「矢張り近侍が違うと落ち着かれませぬか?」
鋭い指摘に、審神者は珍しく口ごもる。
「いや、そういうわけでは…」
けれどすぐに苦笑いを浮かべて自らの弱さを認めた。
「ごめんなさい、きっとそうなんでしょう」
「ぬしさまは、燭台切がお気に入りのご様子ですから」
機嫌よく聞こえる口調の中に、目に見えないほどの僅かな棘のような気配があった。審神者は片眉を上げ、ゆったりと文机に頬杖をついた。そのままじっと代理である近侍の顔を見つめる。意思の強そうな目が赤い瞳の視線をとらえると、愛想の良い笑顔を浮かべた小狐丸の口元がほんの一瞬ぴくりと揺れた。
「彼は、お気に入りと言うか…人を甘やかさないようにしてくれるから、怠け者の私にはちょうどいいのよね」
「ふむ。燭台切は面倒見が良いと見ておりましたが」
「基本的にはね。でも、締めるところは煩いくらいにきちんと締めてくるのよ」
『あのイケメンホスト』という言葉は審神者の胸にしまわれた。
変わりに自嘲気味な笑みが、まだ年若い顔に浮かぶ。
「だから、不在で気を抜いたとたんにこの有様」
小狐丸は自分がまとめた巻物のを山をちらりと見やり『なるほど』と合いの手を入れた。
「改めて振り返ってみると、妙に私に対してはやたらと口うるさいのよね。だからオカンなんて言いたくなるのよ」
「オカン、ですか」
くっくっと含み笑いを漏らすと、小狐丸は楽しそうに口を開いた。
「となると、さしずめぬしさまは燭台切の子供ということですか」
審神者はげんなりとした顔で頭を抱えた。
「子供は遠慮しておくわ」
それに、とつづけた審神者の視線がふと遠いものになる。
「そもそも、あなた達と私では神と人なのだし」
持ち主であるその人の言葉を、年振りた老獪な落ち着きを持って刀が本性である付喪神は受け流す。
それは、当たり前である事実。
審神者の目が年端に合わぬ含みを持って細められた。
「考えてみれば、神様たちに甘えたりお使いを頼んだり。ずいぶん不敬なことをしていることになるのよね、私」
先ほどとは立場が逆の試すような言葉に、悟ったものの年輪を揺るがせず答えが返る。
「確かに我らは神籍の末席に名を連ねるもの。ですが、それ以前にぬしさまは我らの大事なあるじです。みなもそのように思っている筈」
審神者は言葉に出さずに呟いた。そう、それが彼らの刀としての性、と。
付喪神という人より上位の存在にありながら、自らよりも下位に位置する人に所有されることで初めて価値を見出される、物としての逃れられない本性。
それでも
「ありがとう」
率直な礼の言葉は素直な本心
「私もあなた達が大事よ。みんな私にとってかけがえのないとても大切な存在」
これもまた嘘偽りのない思い。
けれど、所有者たる主の言葉を受けて、きらりと野生の眼光が赤い瞳に宿った。
「ぬしさまが我らを敬ってくださると」
嬉しげに微笑んだ筈の口元から、発達した犬歯が鋭くこぼれた。
それを受け、強い意志を込めた審神者の目が眼光強く光る。
「もちろんよ。貴方が私をそう思ってくれているようにね」
瞬きするほどの間、両者の間に緊張が走った。けれどそれは、すぐに霧散する。
頭を垂れたのは神たる所有された側の存在。
「それまことに嬉しいことでございまする」
「そう思ってもらえて私も嬉しいわ」
からりと笑った審神者に対し、大きな身を折るようにして白い毛並みした頭が深々と下げられた。
その耳がぴくり、と動く。
「おや」
そう言いながら、小狐丸は頭を上げ何処か遠くの方へと視線を動かした。
「遠征部隊が帰ってきました」
「そうみたいね」
何もないように見える手元を見て微笑む審神者をちらりと眺め、小狐丸はゆっくりと立ち上がった。
「出迎えに行かれますか?」
「いえ。多分すぐ来ると思う…」
言いかけた所にタイミング良く、鳴き廊下を渡る音が聞こえてきた。
黒い装束に身を包んだ姿が、隙のない身のこなしと共に現れる。
「ただいま、やれるだけのことはやってきたよ」
色香含んだ深い声。
それを聞いた瞬間、今まで厳しいだけだった審神者の顔に柔らかなものが生まれた。
「おかえりなさい、お疲れ様でした」
ねぎらいの言葉を受けて、完璧な微笑みがわずかに緩んだように見えた。
けれど
「はい、これが今回の成果だよ」
甘く響く声で当たり前のように渡された物に、審神者の笑顔がひきつった。
「あ…ありがとう」