刀剣男子と花の仮名の女審神者 近侍の不在
受け取った巻物をそっと後ろに追いやる所に、すかさず燭台切の咎める声が響く。
「ダメだよ、あと回しにすると余計めんどくさくなっちゃうだろ?」
う、っと思わず詰まった審神者の目が、こちらをじっと見つめる赤い瞳に気がついた。目と目を合わせ、一瞬の間の後、2人は同時にくすりと笑いを漏らす。
「え?どうしたんだい?2人とも?」
不思議そうな黄金色した片目に、審神者は笑いながら緩く首を振って見せた。
「なんでもないの。ね」
「はい」
愛想の良いのとはまた違う穏やかな笑みを見せ、小狐丸はゆるりと立ち上がった。
「それでは、私めはこれにて下がらせていただきまするか」
「はい。近侍のお勤め、お疲れ様でした」
キリリと返した後、審神者は柔らかく笑んだ。
「手伝ってくれてありがとう、小狐丸。助かったわ」
静かな微笑みを見届けて、小狐丸は静かに頭を垂れた。
「お疲れ様」
深々と響く声に軽く頷いて、白い毛並みが執務部屋から辞した。
廊下に出れば日差しはまぶしく、再び鶯の鳴き声が聞こえた。
のどかな声に耳を傾けたのち、赤い瞳を細め小狐丸は笑みを浮かべた。
さわやかな風が吹き抜ける廊下を渡る足音はあくまで穏やかだった。
作品名:刀剣男子と花の仮名の女審神者 近侍の不在 作家名:股引二号