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世に転生あるがままに

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この世が全て神の力で動いている、神じゃなくともこの世は誰かの記した本の通りに動いているとしたら。そう、この僕。一村幽鬼(いちむら ゆうき)はいつもそんな事を考えていた。
ーもし、この世から出れることができれば。死んででもいいさ。まぁ僕たちには無理だろう。誰か、………。たすけて、。ー



2086年4月2日

「えー、この度はここ’私立沙藺百合学園(しりつさいゆりがくえん)への入学おめでとう。3年間の高校生活を充実させ、楽しく過ごすこと。これから皆さんは、大人への第一歩となるのです。たとえ苦境がーーー」
聞きなれた校長の話、否。学校の先生の話というものには睡眠魔法が施されているのではないだろうか。話は長い。無駄話。生徒たちも親も入学式は胸を張り来ていても帰る頃には心もしょげているだろう。いや、解放により一層背伸びをしているだろう。
多くの家族ずれの入学生達は入学式も終わり、家に帰っているところだ。
…親、か。
僕には親などいない。妹と二人暮らしだ。僕や妹が幼い頃のことだ。
<旅行先にて>
「まもなく、ーーーに御到着致します。乗降りの際はお荷物のお忘れが無いように足元にお気をつけて降りてください。」
僕らは家族揃ってバス旅行の最終日を迎えていた。無事、家への帰り道のことだった。
『ドドドドド』
この効果音が一番合っているのではないだろうか。
今日は雨の日であり、山の停留所に到着するというアナウンスのすぐ直後、山の方から土砂崩れが起きたのだ。バスは避けることもできずに流されてしまった。
"道のない崖に"
僕たち、いや、バス内の人々は死を覚悟した。しかしバスはゆっくりと、ゆっくりと落ちていく。
不意に、サイドウィンドウから灰色の人のような形を保ったままの液体らしき生物が言う。
「オマエタチヲタスケテヤル」
え?僕は思った。周りを見た。そして気づく。
ーバス内の人々の僕以外は皆スローのようにして動いている。ー
「どうしたら助けてくれるの?」
その時の僕は今思えばよくあんなに冷静に入られたな、と思う。
僕は聞いた。必死に。しかし灰色の生物が言った言葉は幼い僕たちには理解のできないものだった。
「ココカラダシテホシイナラオマエラ兄妹ハイッショウコノヨデクラス。ムロン、シンデモイキカエラセテヤル。コノヨニ転生ガデキルマデハナ。マァ転生などゲンジツではカンガエラレナイガナ。ハハハ。」
灰色の生物はから笑いをして改めて問いただした。
「タスケテホシイカ?アマリジカンガナイ。イソゲ。」
僕たち、否。僕はこう答えるしかなかった。考えることが出来なかった。
「灰色の人。助けて。僕たちを。僕はどうなってもいい!妹は分かんないけど、いいて言うから!お願い!」
灰色の生物は軽く微笑んだ後、頷き、徐々に消えてゆく。その際に幼い僕にこう言った。
「タスケテヤロウ。オマエヲ。イモウトヲ。」
ふと気づく。
「他の皆は?お父ちゃんは?お母さんは?」
この嫌な予感は当たることになる。灰色の生物は区悪な形へと変化を成し、区狂な微笑みをして言う。
「ナンノコトダ。マアヨイ。あと10秒デバスは落ちる。キヲウシナッタイモウトを連れてハヤクデルガヨイ。オマエラニハ二十秒ダケ浮かせてやる。ハヤクデロ。」
僕はその時あまり意味が分からなかった。そのためすぐに妹を連れてバスの外、道まで辿り着いた。
後ろを見た。真っ暗な谷底へとバスは消えた。
悲鳴と共に。
"僕の悲鳴と共に"

<回想end>

家に着いた。
「ただいま」
向こう、いわば台所の方からエプロン姿のぼくより少し年下の妹が出てきた。
「おかえりなさい」
僕の妹は"一村睦月(いちむら むつき)"という。
あの日、妹にはこう伝えた。『僕たちはね、一生この世に過ごすことになる。』
妹ははじめは理解出来ていなかったようだ。しかし年をとるにつれ最近シュンとしてしまった。
また、僕たちは一生今のままということではない。高校3年の卒業式の日に消える。僕たち二人は。この世からなかったことにされるのだ。
そしてふとしたら高校一年の入学式の校長の話の途中に寝起きるという形で、別の世界として僕たちは生成される。僕たちの記憶は消えない。しかし、僕たち以外の世界は僕たちを知らない。わからない。僕たちがいくらこの世で友達を作ろうと消えてしまえば元通り。自殺も試みた。しかし、高校3年の卒業式の終わりと同じように、瞼を閉じて、次開けるときには入学式だ。
入学式帰りのただいまはこれで何度目なんだろうな。と思う。

ふと、睦月は不思議そうな顔をして聞いてきた。
「幽鬼にぃ、どうしたの?しれない顔をして。」
「なんでもないことだよ。」
いつの日かのこの世で、同じような質問をされた時、『僕たちは戻れないんだろうな、と思ってさ。』と言った時、妹は悲しそうな顔をした。
ただでさえ、あの時の僕は妹の人生さえも変えてしまったのだ。極力。妹の悲しい顔をさせたくなかった。
妹は特に気にした様子もなく台所の方に戻っていく。
「私ご飯作るからお風呂入ってて」
「おぅ。いつもごめんな。家事やらせっぱなしで。」
「いいって。」
家事は妹が進んでやってくれる。妹は中学生だ。高校生より帰るのが早いんだろう。
………いつか僕も妹と変わってやりたいな。妹にも高校生を楽しんでほしい。そう思った。…中学生は校則の毛細血管だ。学校にも、悪魔にも縛られている妹が可愛そうだと思う。


風呂からあがり、妹と飯を食っている。今日はじゃが肉だ。肉じゃがとは違い、
肉が入っていない。
じゃあ、ジャガジャガか。
そんなことを思っていると、妹が頬を膨らませた。
「もぅ。幽鬼にぃ!肉がないなんて思わないでよね!ジャガジャガじゃないと美味く作れないんだから!」
「わ、わるぃ。つい。。な。」
「分かれればよろしい」
妹と僕はいつもこんな感じで、楽しんでいる。



唯一の喜びは、一人では無い。ということ。

妹を大切にしなきゃな、と思う。


「ごちさうさま」
「お粗末様!」
手を合わせると妹もそう言って片付けに入った。

「僕も手伝うよ。」
さすがに任せっぱなしは悪いので手伝うことにした。
しかし妹はいいっていいって。といって追い返された。うう。

ベッドは同じ部屋に置いてあり、僕は2階だ。
僕は目を瞑る。


あの時のことが離れない。10年前のことだ。
いくら5歳の少年だったとしてももう少しいい判断はなかったのだろうか。
毎夜、考えてしまうのだ。















(回想)卒業式において。


「幽鬼、おまえ、消えるのか?」
僕には友達がいる。唯一、俺のことを分かってくれた友達だ。
名前は"安威 雄二(あいい ゆうじ)"というらしい。
「ああ。雄二。いままで世話になったな。楽しかったよ!」
僕は背を向けて目を瞑った。開ければまた入学式だ。
その時後ろから声をかけられた。いつもどおりの元気な声で。
「おいおい、今までじゃないよ。これからも。だ。この世というなの別世界の俺とも仲良くしてやってくれ。」
雄二は笑顔を壊さない。
「寂しくないのかよ。。。僕は何度味わっても耐えられないよ。」
作品名:世に転生あるがままに 作家名:Ashima