修学旅行
そのまま手を繋いだまま、
映画村を回る。
やっぱり馬村は、
包むように手を繋ぐ。
それが心地よくて安心する。
「あった!忍者屋敷!」
カラクリの扉をいろいろ
開けて前に進み、
ちょっとした迷路のように
なっていた。
「何これ、面白い!」
あーでもない、
こーでもないと、
カラクリを解いて、
最後は床が斜めになったような
変な作りになっていた。
「わぁっ」
それに気付かず、
すずめが足をすべらせそうになると、
馬村はさっきまで
そっと包んでいた手を
グッと握って
「あぶね!」
と引き戻してくれた。
「ありがとう///」
すずめが赤くなって礼を言うので
馬村もなんだか恥ずかしくなって、
「さっき痛くなかったか?」
と優しい言葉をかける。
するとなんとクラスの女子がいて、
「あっ馬村くんと与謝野さん。」
「えっ手ぇ繋いでる?」
「馬村くんが優しいってびっくり。」
といろいろ言われた。
また馬村の顔がヒクヒクして
一気に機嫌が悪くなった。
その後は繋いでた手も離してしまった。
「次行くぞ。」
と映画村を後にしたが、
京都の観光名所のあちこちに
同じ学校の人がいて、
結局どこでも言われた。
金閣寺を訪れた時、
ツルと犬飼に会い、
「あれ、馬村また機嫌悪いの?」
と聞かれた。
「俺達もだよー。
からかわれたりで
落ち着かないよね。」
犬飼は笑って言う。
「落ち着かないどころじゃねえ。」
馬村がブツブツ言っている。
すずめは、
「もう、いーじゃん。
気にして楽しめないのは嫌だよ。
じゃあいっそ見せつけよう。」
と、馬村の手をギュッと握って
歩き出した。
「オ、オイ」
馬村が戸惑っていると、
「あ、手を繋いでる〜」
などと囁かれている。
馬村が手を離そうとすると、
「ダメ!」とすずめが言った。
「前に馬村が一年生にモテてた時も
そうだったじゃん。
みんなすぐ飽きるよ きっと。
でも修学旅行は今日までだから、
馬村とちゃんと楽しみたいよ。私。」
「………わかったよ。」
結局そのまま手を繋いで
二人は歩いた。
ヒソヒソ言われながら。
でもその光景に慣れたのか、
帰りの新幹線の頃には
何も言われず、二人でいても
見慣れた光景の一部になっていた。
「飽きるの早えな。」
「よかったね。」
「学校帰るときも
毎日繋いで帰ろうか?」
「いや、やっぱ恥ずいからいい。」
「そんなこと言えないと思うけど。」
「?」
旅行から帰って数日、
今度はまた一年前のように
新しく入学してきた
新入生に、キャーキャー騒がれ、
馬村の機嫌悪い日々が始まった。
「ほらね?」
「………」
結局新入生に飽きられるまで
毎日手を繋いで帰ることになった。
そしてまた「マニアックな先輩」
として馬村は名を馳せたのだった。