魔法少年とーりす☆マギカ 第六話
頂点にシャープ記号に似た意匠。 蛍光緑の中でも解る鮮やかな緋。 それでもトーリスは首を振り叫ぶ。
「違う! 俺はきっと、魔女、そうだ魔女に、記憶を弄られてるんだ! 先週フェリクスは帰って来たんだ、あいつ、きっと今は親戚に誘われて、旅行か何かで、」
「んだ、魔女のせいだの。 身体ば喰われたのは(そうだ、魔女のせいだな。 身体を喰われたのは)」
通話ボタンからすでに手は離れていた。 心臓の鼓動が拍を増していく。 トーリスは震えていた。
「魔法少年達が動けるのは、ソウルジェムの精々、半径百メートル圏内だ。 圏外に出たらそいつは魂と肉体の関連付けが外れて、放置すれば死ぬ」
「だからこうやって、指輪型にして持ち歩いてるのサ。 君は出来るのかい?」
イオンは左手首を回し、中指に嵌る柘榴色のソウルジェムを誇示する。 爪に浮かぶ滴型。 二人の爪は良く見えないが、藍のハルドル。 草色のアーサー。 トーリスの左手には何もない。 念じても何も現れない。
「ジェムが無事なら死にはしねえ。 動かす身体が無くてもな。 理論上は」
「すごいメンタルだよ。 よっぽど友達が大切だったんだ。 身体が無いから友達自身に守りの魔法を使い続けるなんて」
「わのジェムが濁ら事が解っててもの(自分のジェムが濁る事が解っててもな)」
「でも、でもあいつは! 先週までずっと俺と」
「他の人は、魔法少年じゃない普通の人は、フェリクスの姿を見てた?」
弟達は無反応であった。 先生に見せても妙な反応を返された。 目を見開き、トーリスはへたり込んだ。
「きっと魔法で直接、脳内に語りかけていたんだ」
彼にはもう、言葉を返す力も無かった。
「フェリクスは魔法少年だった。 そして、」
思考は凍りつく。 暈けていた思考は晴れ、最後のピースが収まった。
穏やかに論じる声が、恐るべき呪いの呪文の様にすら思えた。
「トーリス、お前は最初から魔法少年でもなんでもない、ただの人間だった。 普通の中学生だったんだよ」
作品名:魔法少年とーりす☆マギカ 第六話 作家名:靴ベラジカ