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閑話休題:押すなよ絶対押すなよ

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「決めつけないでくれ」
 とは言ったものの、少年に恋人を紹介されて祝福するところはどうにも想像ができなかった。そもそも本当の家族とは違うんだから、そこまで干渉する立場でもないし、少年の恋人が自分の義理の家族のような存在になるわけでもない。土台が違うじゃないか。その例え話は卑怯だ。
 言い訳の言い訳が頭の中を飛び交って自分の首が閉まっていく。極め付けにK・Kは言い放った。
「ところで、さっきのレオッちの彼女の話、全部ウソだから」
 飲んでいたコーヒーが気管に入って派手にむせてしまった。
 少しはそうなんじゃないかと疑っていたが本当にそんなくだらない嘘をつかれるとも思わなかったのだ。なんだって女はこういうわけのわからないことを言い出して振り回そうとするんだ。
 それよりこんな見え見えの嘘に振り回された事実に愕然とした。
 K・K、君はレオナルドを心配しているという体で話を始めたけれど、万が一にも僕が彼を恋人みたいに扱ってる自覚なんか持ったら困るのはレオナルドじゃないか。
 万が一の話で、実際はそんなことない、はずだが。
 部屋に流れる居心地の悪い空気をかき混ぜるように携帯の呼び出し音が鳴った。表示名はタイムリーなことにレオナルド・ウォッチ。
 変に意識してしまい、K・Kの顔を窺ってから電話に出た。
「もしもし?」
『あぁ、スティーブンさんッ!ちょっと……うおっ……今大変なことになってまして…ッ!』
「どうした、戦ってるのか?!」
 電話越しに爆発音がする。クラウスの声も断片的に聞こえたので戦っているのは間違いなさそうだった。
 K・Kが出動に備えて腰を浮かす。
『いや、もうクラウスさんとザップさんで片がつきそうなんで大丈夫なんですけど……』
「本当に大丈夫なのか?!」
『えっと……どこから説明したらいいかな。まず……僕のバイト先の近くの店で飲んでたんですけど』
 ちょうど騒ぎがひと段落したようで、爆発音が収まると同時に語り出したレオナルドのバックでエイブラムスの呑気な笑い声がした。お蔭で大体察しがついた。
『その地下が例の宗教団体のアジトだったみたいで、たまたまガス管が爆発して連中の集めた火薬に引火して計画がめちゃくちゃになったので自棄を起こしてパワードスーツで暴れ出して、この辺一帯メチャクチャですよ』
「…………………まさかそれ全部がエイブラムスさんのアレか」
 横で聞いているK・Kにも別の種類の緊張が走った。
「でもクラウスとザップで手は足りたんだろう?」
『あ、はい。鎮圧済みで警察が集まり始めてます』
「わかった、今から俺も向かうが気を付けて…」
『それと、あともう一件なんですけど……』
「なんだ、まだ他に問題が起きてるのか」
『個人的なヤツなんすけど、バイト先の店が一緒に吹き飛びまして……』
 起き上がりこぼしのようなしぶとい経営者ばっかりのHLである。一度や二度建物が吹き飛ばされたってそのうち再建するだろうが、その間は当然バイトは休みになる。
「わかった、わかったから全てなんとかする。そんな困った声で謝らなくていいから安全な場所で待ってるんだ。いいね」
 電話を切って振り向けば、K・Kが腕を抱いて肩を竦めていた。
「あの人がいるとホンット計算が狂うわ」
「まったくだ」
 これから事件の後始末と半分失業状態の彼の回収だ。いっそバイト先が再建するまでの間うちにでも住めば手っ取り早いと思うのだが、先刻のK・Kとのやり取りが頭をよぎった。
 どうしてくれるんだ。これから先のことを話し合わなくちゃならないのに。
 ぬるく湿った夜風を振り切りながら悩める番頭役は出動していくのである。