魔法少年とーりす☆マギカ 第七話
―フェリクスには悪いけど、今は強引にソウルジェムを休眠させてる。 おいら達がちゃんと見てる間は穢れないよ。 濁りは何とかして浄化しておく…
…そういう訳だ、安心しろ、ソウルジェムを砕くだの手荒な真似はしねぇ。 イミテーション・インキュベーターが力を貸すって言うなら、俺達は…
誰に向けられたとも知れぬ言霊が頭を素通りする。 俺は親友を守っていたつもりだったのに。 本当は俺が守られていただけだった。 それどころじゃない。 俺が出しゃばったから、俺が勝手な事をしたから、トモダチは、フェリクスは。 俺を守ろうと何度も何度も死にかけて、そして、今も苦しんでる。 俺のせいだ。 何もかも、一切合財、全部俺の、
規則的なタイピング音が止まり、小さな滑車の回転音が鳴った。 軽やかな執筆音が風を切る。
「親友サ会いで時は連絡してぐれ(親友に会いたい時は連絡してくれ)」
ハルドルは小さな紙をトーリスの視界に入るよう、円卓の上に置いた。 三つの携帯電話の番号。
「おいらは私用でもどっちでも。 辛かったら何時でもおいでよ。 知ってる範囲なら教えられるし、気晴らしに付き合うぐらいは出来るから」
「ダラダラ悪かったな。 イオン、客人の付き添い」
「…いや、いい」
トーリスは紙を受け取り、スマートフォンの入ったポケットに丁重にしまう。
「色々ありがとう」
三人に一礼し、トーリスは部屋唯一の扉を開けた。
辺りを照らす透き通る橙色。 全面ガラス張りのときわ中校舎は長い日暮れを受けて眩い輝きを見せる。 普通の生徒であったなら、この夕刻の美しい情景に多かれ少なかれ感動と喜びを感じるだろう。 しかし、魔術部の扉を閉じ、親友のパンドラの箱を開けてしまったトーリスは、美しい橙と、親友が苦しみもがきながら発した悲鳴の警告灯が重なって見えていた。 焦げ茶のフローリングの床がまるで血の色のよう。 力が抜ける。 彼は糸が切れた様に、力なく腰を落とした。 下履きのゴム底が擦れる。 華奢な足音が近づく。
「何もされなかったんですね!? 怪我はありませんか? あいつらは何か」
母親の様なエリゼベータの柔らかな声。 彼女は時折軽くトーリスの身体に触れながら全身の無傷を確認する。 彼にはお節介なまでの温かさが、この時ばかりは辛くて堪らなかった。
「先週はごめん」
「えっ? いいですよ、気にしてませんから」
「【魔法も使えない】癖に、俺。 酷い事を言っちゃった」
息を吐きエリゼベータは口を覆った。 少女らしい小さな手が震える。
「十字軍の皆は命を駆けてたのに、俺はヒーロー気取りで勝手な事して、ただ、皆の邪魔してただけだった」
「そんな、そんな事」
「いろんな事背負って、皆は魔女と戦ってたのに、俺」
「…いいんです、いいんですよ」
「俺… ヒーローにでもなった気分で、何処の誰かも知らない人【だった】魔女を倒したんだ。 知らない内に人を殺しちゃったんだ。 最低だろ。 もしかしたら魔女から元に戻せたかも知れなかった人を、殺したんだ」
エリゼベータは答えなかった。 答えに相応しい言葉を見つける事が出来なかった。
「迷惑かけて本当にごめん、ごめん、なさい、ごめんなさい…!」
声を震わせ、トーリスは逃げる様に校舎を飛び出して行った。 悲しさ、悔しさ、申し訳なさ、罪深さ、そんな綯い交ぜの感情が涙と共に散って行った。
…そういう訳だ、安心しろ、ソウルジェムを砕くだの手荒な真似はしねぇ。 イミテーション・インキュベーターが力を貸すって言うなら、俺達は…
誰に向けられたとも知れぬ言霊が頭を素通りする。 俺は親友を守っていたつもりだったのに。 本当は俺が守られていただけだった。 それどころじゃない。 俺が出しゃばったから、俺が勝手な事をしたから、トモダチは、フェリクスは。 俺を守ろうと何度も何度も死にかけて、そして、今も苦しんでる。 俺のせいだ。 何もかも、一切合財、全部俺の、
規則的なタイピング音が止まり、小さな滑車の回転音が鳴った。 軽やかな執筆音が風を切る。
「親友サ会いで時は連絡してぐれ(親友に会いたい時は連絡してくれ)」
ハルドルは小さな紙をトーリスの視界に入るよう、円卓の上に置いた。 三つの携帯電話の番号。
「おいらは私用でもどっちでも。 辛かったら何時でもおいでよ。 知ってる範囲なら教えられるし、気晴らしに付き合うぐらいは出来るから」
「ダラダラ悪かったな。 イオン、客人の付き添い」
「…いや、いい」
トーリスは紙を受け取り、スマートフォンの入ったポケットに丁重にしまう。
「色々ありがとう」
三人に一礼し、トーリスは部屋唯一の扉を開けた。
辺りを照らす透き通る橙色。 全面ガラス張りのときわ中校舎は長い日暮れを受けて眩い輝きを見せる。 普通の生徒であったなら、この夕刻の美しい情景に多かれ少なかれ感動と喜びを感じるだろう。 しかし、魔術部の扉を閉じ、親友のパンドラの箱を開けてしまったトーリスは、美しい橙と、親友が苦しみもがきながら発した悲鳴の警告灯が重なって見えていた。 焦げ茶のフローリングの床がまるで血の色のよう。 力が抜ける。 彼は糸が切れた様に、力なく腰を落とした。 下履きのゴム底が擦れる。 華奢な足音が近づく。
「何もされなかったんですね!? 怪我はありませんか? あいつらは何か」
母親の様なエリゼベータの柔らかな声。 彼女は時折軽くトーリスの身体に触れながら全身の無傷を確認する。 彼にはお節介なまでの温かさが、この時ばかりは辛くて堪らなかった。
「先週はごめん」
「えっ? いいですよ、気にしてませんから」
「【魔法も使えない】癖に、俺。 酷い事を言っちゃった」
息を吐きエリゼベータは口を覆った。 少女らしい小さな手が震える。
「十字軍の皆は命を駆けてたのに、俺はヒーロー気取りで勝手な事して、ただ、皆の邪魔してただけだった」
「そんな、そんな事」
「いろんな事背負って、皆は魔女と戦ってたのに、俺」
「…いいんです、いいんですよ」
「俺… ヒーローにでもなった気分で、何処の誰かも知らない人【だった】魔女を倒したんだ。 知らない内に人を殺しちゃったんだ。 最低だろ。 もしかしたら魔女から元に戻せたかも知れなかった人を、殺したんだ」
エリゼベータは答えなかった。 答えに相応しい言葉を見つける事が出来なかった。
「迷惑かけて本当にごめん、ごめん、なさい、ごめんなさい…!」
声を震わせ、トーリスは逃げる様に校舎を飛び出して行った。 悲しさ、悔しさ、申し訳なさ、罪深さ、そんな綯い交ぜの感情が涙と共に散って行った。
作品名:魔法少年とーりす☆マギカ 第七話 作家名:靴ベラジカ