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靴ベラジカ
靴ベラジカ
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魔法少年とーりす☆マギカ 第七話

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 《そいで? 調子はどうなん》
 「ええ、ぼちぼち」
 もう日没間近の暗い路地。 チープで旧式の街路灯に照らされる、ジュエリーボックスに並べられた一様なシャープに似た意匠。 コピー染みたグリーフシードの内一つを選り分け、眼鏡の少年は新しく生まれた同じ形状のグリーフシードと取り換える様にタイル床の上に置いた。 新しい物と比べ禍々しい空気を纏うグリーフシードに、ローデリヒは自身のジェムの濁りを移し浄化を行った。 建築事務所とは名ばかりの、暴力団の根城の前。 穢れを孕んだ魔女の卵はさらにおぞましい魔力に包まれていく。
 《魔法少年も難儀やんなあ》
 「…ええ」
 アントーニョを相手に、ライラックの魔法少年は変身を解きながら通話を続ける。 このグリーフシードは間もなく魔女を産むだろう。 そして何れは使い魔を産み、人間を喰らい、使い魔は成長し… 新たな魔女を産む。 あからさまな悪人を狙っているとはいえ、恐ろしく非人道的で、魔女とは何の関係もない、一般人を餌にした。 魔女が産む、グリーフシードと言うソウルジェムを浄化する無二のシステムの養殖行為。 ローデリヒのジェムは以前より明らかに濁りを孕むペースを上げていた。
 グリーフシードを増やさなければ、浄化の手段を増やさなければ、魔女を倒せる魔法少年達が先に命を落とす。 そう自分に言い聞かせながら、彼は連鎖殺人者の魔女をある程度、敢えて黙認し続けている。
 「魔術部製の浄化システムとやらは信用出来ませんから」
 半分は真実、半分は嘘である。 ローデリヒがときわ中魔術部の者を信用していないのは本心だ。 人工的なソウルジェム浄化システムなどと言う物があるならば、こんな殺人幇助などは止めて全財産を投げ打ってでも手に入れたい。 しかし魔法に影響された彼の疑り深い思考回路は、何度解析命令を出してもそのようなシステムの実現は夢物語だと言う結論を導き出す。 万が一人命を生贄にしなくともジェムを浄化出来るプログラムが実用化した暁には、自身は間違いなく連続殺人者の烙印を押されるだろう―。
 裕福な家庭に産まれた故に、彼は年端行かぬ内から隣人に嫉妬の絡む後ろ指を指され、PTAで不当な資金援助を強いられる母の背を見続け、ガキ大将染みたエリゼベータと出会うまで、意地の悪いクラスメイトには持ち物を盗まれ、仲間外れにされ続けた之までの境遇。 頭を過る不愉快な記憶。 どれほど彼らの死を望みながら生きて来た事か。
 苦しみ続けた自分の元へも漸く遅い春が来たのだ。 二度とこの幸せを手放してなるものか。 普通の市民としての生活を守りたいが故の執着。 そして何より、ローデリヒは幼馴染が魔女となる様など見たくなかった。 嘗ての仲間達の様な悲劇は、二度と。
 《何や、沈んでんな》
 「沈んでなどいませんよ。 私はいつも通りです」
 《妙―に黙りこくっとるやん。 わっかりやすい癖やわ―》
 「…!!」
 実際アントーニョには良く指摘されて来た癖であった。 平時は冷徹なローデリヒの頭に熱が上る。 親友の不躾な口調。 しかし重苦しく緊張した感情は、尻を軽く蹴飛ばされた様に、やや安静と弛緩の方へと傾いた。
 《いつものおまじない行くで? ふそそそそ~》
 「このお馬鹿さんが…」
 抜けた呪文に眼鏡の少年の力も程良く抜けた。 良き友を失う訳にはいかない。 アントーニョと遊びに出る約束を取り付けながら、彼は流れる雲から顔を出す月に目を見遣った。