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刀剣男子と花の仮名の女審神者 過去の思い

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めったにないことだが、空は今にも雨が降りそうな色をしていた。
どんよりとした鼠色の雲を珍しそうに見上げ、彼女は縁側から室内へと戻った。
年若い顔に似合わぬ悟ったような顔で、これまた達観したような落ち着きを持つ近侍の側に腰を下ろす。
「雨が降りそう」
ひとり言のような呟きに、透き通るような白い顔の彼が優しく相槌を打つ。
「そうだね」
頷いた拍子にかすかに揺れた髪は艶やかな黒髪。男性にしては少し長い襟足をしたショートカット。毛先は所々しっとりとした房を作っていて、そこはかとない色香を漂わせている。あちこちが絶妙な加減で跳ねているのは本人曰く、毎朝苦労して整えているそうだ。
黄色い瞳はよく見ると僅かに光を帯びていて、黄色というよりは黄に近い黄金の色に見えた。
明らかに人ではない目の色、そして完璧に整った彫りの深い顔立ち、白い肌、深く柔らかく響く声を初め全身から匂うような色気を漂わせた彼は、神の末席に籍を置くもの。本体である刀の名は燭台切光忠と言う。
こちらは正真正銘一人の人間である彼の主は、傍らの近侍をしみじみと眺めた。
「それにしても、不思議」
「どうしたんだい?急に」
こちらの方がよほど不思議そうな燭台切の顔に、主である審神者はくすりと笑った。
「いや…」
返事をしかけた所で、長い髪がさらりと手前に流れ落ちた。鬱陶しいと背中に払いのけかけ、ふと思いついて慣れた動きで手早く後ろにまとめ上げた。止めピンを探して彷徨わせた目の前に、タイミング良くかんざしが差し出される。ありがとう、と簡潔に礼を言い、邪魔な髪の始末を上げた。
艶めかしく露出した細いうなじから、気の利く近侍がそっと視線を外したことは別の方を見ていて気がつかなかった。
「それで、何が不思議なんだい?」
話の続きを促され、彼の主たる審神者は再び傍らに視線を戻した。
「そうそう。前から思っていたのだけれど、あなた達って誰もがみんな、あつらえたみたいに見目が良いのよね」
彼女が密かに愛刀と呼ぶ彼は、少し困ったような顔で素直に頷く。
「うん、そうだね。それがどうかしたのかい?」
今度は何を言い出したんだろう。そんな声が聞こえてきそうで、審神者は口元に手を当て気づかれぬように小さく笑った。
くふっと小さく咳払いをしたように装い、真面目な顔に戻す。
「あなたたちの過去の持ち主たちが、それほどまでに男前ばかりだったとは思えないのよね。けれどあなたを初め刀剣男子たちは揃って整った容姿をしている。必ずしも昔の持ち主たちにそっくりな似姿というわけでもなさそうなのに、特徴だけは現れている…っていうのがちょっと不思議な気がして」
審神者の言葉に、自分もその一人である燭台切はうーんと首を捻った。
「そう言われても。僕たちは自然とこの姿かたちとして現れただけなんだけどね」
ふうん、と審神者は感慨深そうに声を出すと、頬杖をついた。
「この世に呼ばれ、あるようにして有るがままに肉の鎧を得た…ってことか」
そのまま、目の前の黒スーツで決めた眼帯イケメンをしみじみと見つめる。
彼を初め、本殿に集う刀剣男子たちは全員が刀に宿った付喪神を呼び出して具現化させた存在である。
付喪神というのは、年月を経ていつの間にか物に宿る魂たち。神の末席に名を連ねる者たちだ。もっとも、神とは言ってもランクとしては低く、どちらかというと妖に近い存在ではあるのだが。
だから、彼らは時に単純と言えるくらいに純粋であり、そしてこれほどまでに人に近い者たちなのだろうか。
「貴方たちがイケメン揃いということ自体は、特に不思議でもなんでもないのだけれど」
「ふうん…そうなのかい?」
こちらは不思議そうな黄金色の片目に、審神者は静かに笑いかけた。
「ええ。だって、あなたたちの本体である刀はとても美しいもの」
玉鋼と呼ばれる特殊な材質から打ち出される刃物たち。火の中を潜り何度も叩き上げられては打ち出され鍛え上げられた刃の鋭さ、その冴え冴えと光る刀身は見るものの目を吸い付かせずにはいられないほどの怪しい魅力を持つ。
そんな彼らだからこそ、人の姿を得てもこれほどまでに美しいのだと。
「それはどうも。光栄だね」
さらりとしたそつのない返しに、このイケメンホスト、と心の中で軽く毒づくのはもはや習慣化している。
それでも、愛しいと思ってしまうのは刀としての彼らの性に囚われたからだろうか。
古来より、当初の目的の武器という存在だけではなく、その美しさと高い価値により人を魅了してきた本性故の。
「初めは、その特徴が現れた過去の持ち主への強い思いが具現化されたのだと考えていたのだけれど」
審神者はそこで言葉を切り、少し視線を泳がせた。
「必ずしも過去の持ち主の特徴が表れているわけでもなさそうなのよね。だから、貴方たちの姿かたちを決定づけたものはなんだったのか気になっているのだけれど…」
付喪神は長い年月を経て人に使われた物に宿る…その一文を思い返しながら、ゆっくりと言葉をつづけた。
「付喪神はいつ間にか物に宿る…と文献にはあるの。いつの間にか、宿っていた。その宿ることををなせるだけの条件ってなんだったのかしら」
「条件、か。想像もつかないな。それは僕たちが生まれるきっかけでもあったということなんだろうけど」
「そうね…。ね、燭台切」
「なんだい?」
「あなた、自分がいつ生まれたのか覚えてる?」
審神者の問いに燭台切の整った顔がとまどいを浮かべる。白い顎が少し上を向き、眼帯に隠れていない方の目が瞬いた。
「…さあ?いつだったろう…」
思い出そうとするしぐさの後、審神者に視線を戻すといつもの完璧に近い薄い微笑みを浮かべた。
「ごめん、よく覚えていないんだ。気がついたら僕はもう存在していたからね」
「そうよね。私だって自分が生まれた瞬間なんて覚えていないもの…当たり前か」
苦笑してごめんなさい、とつぶやく主に、どういたしましてと所有された神が整った顔に優しい笑みを浮かべる。
ほんのりと微笑み交わしながら、視線と視線を合わせる。
外の湿った空気は、しっとりとした草の匂いを室内に漂わせてくる。
束の間穏やかな空気が辺りに流れた。
幸せそうに眼を伏せたそのとき、審神者の頭に閃くものがあった。
「もしかしたら…人と同じなのかもしれない」
「何がだい?まさか、付喪神が生まれるための条件が、ではないよね」
「そう、それ」
簡潔な答えに、燭台切は何かを止めようとするかのように片手を上げた。
「いや、ちょっと待って。いくらなんでも…」
やや慌てた様子に頓着せず、審神者は言葉をつづける。
「人の自己形成も、自我という初めの一点から始まり、それが周囲と関わりを持つことによって経験を得て、やがて一人の人間、自分というかたちになって行く。何の刺激も受けないままでは、人は人として内面の形を成せない」
「…それはつまり、僕たちのこの姿を決めた条件が僕ら自身によるものだけではない…と?」
近侍の言葉に、彼の主は花が咲いたような顔で華やかに笑った。
「そう。色んな条件の中で、外から受けたことや感じたこと…様々な思いが重ねられてその結果、生まれて形成された…」
けれど、言いかけた途中で言葉を切り、審神者は考え込むようにして口を噤んだ。
「どうかしたのかい?」