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刀剣男子と花の仮名の女審神者 過去の思い

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物思いに沈んだ顔を、深い黄金色の瞳がじっと見つめる。
遠くの方で、鯉の跳ねる音がした。
ややあって、審神者は静かに口を開いた。
「これは仮定なんだけれど。ひょっとしたら、あなたたちに”自我”が生まれた時、初めて今纏っているような人型…姿かたちが出来たのかもしれないわね」
「自我…」
「そう。ただの物としてではなく、自分としての存在が生まれた時。もしかしたら、それがあなた達が付喪神として誕生した瞬間、かもしれないわね」
「生まれた…か」
珍しくいつもたたえている微笑みを消し、付喪神の一員である彼は考え深げに瞳をかげらせた。
「そうだとしても、元の持ち主とは全く関係のなさそうな姿と元の主に近い姿の違いはどこなんだろう?」
「そうね…。過去の持ち主の特徴が色濃く出ている人たちは…きっとそれだけ強い思いがあったり影響を受けたりしたのでしょうけれど。そうでない子たちもきっと、それぞれに何かの思いを感じ受け取って今の姿を得たのではないかしら」
なるほどね、と相槌を打った燭台切はふと考え込むように顎に手を当てた。
「過去の…持ち主か」
複雑そうな表情を見つめ、審神者は静かに口を開いた。
「例えば、貴方の姿」
「僕?」
「そう。その特徴的な姿。それだけ強く表れているということは、貴方が政宗公とともにあった時間にとても強い影響を受けたということでしょう?」
長い沈黙が下りた。
空はますます薄暗く曇り、風が湿った土の匂いを運んで来た。
あおられた庭木や草が、ざわざわと落ち着かない音を立てる。
やがて
「…そう…かもしれない」
まだ迷うような瞳をしながら、燭台切は深々と響く声で話し始めた。
「他のみんなみたいに、特に強い思い入れがあるって訳でもない…と思うんだ。ただ、僕は多くの時間を飾られたままで過ごしてきたから…。初めてきちんとした刀として扱ってもらえたのは政宗公にだったね。そういう意味では、一番強く影響…君が言うところの思いの影響を与えられたのかもしれない」
黄金色の瞳が何処かここではない場所を見つめる遠い目になった。
「貞ちゃんと一緒に戦や遠出や…色々な所に行くのにいつも帯刀してもらって、そして刀として存分に働いたな」
微笑みとは違う、懐かしむような寂しそうな笑みが掘りの深い顔に浮かぶ。
「…楽しかった?」
「そうだね…大変だったこともあったけれど。楽しかった…のかな」
残されている文献や過去の調査からすると、本人が言う通り、多くの時間を燭台切光忠は飾られたまま過ごしてきたという。その中でおそらく一番長い時間人に帯刀され、実際に刀として使われたのは、今の燭台切の似姿に近い正宗公であるというのも確からしい。けれど、その後別の人の手に渡ったのちは、再び実戦に出たり人に帯刀されることもなく、遺産としての貴重品、飾り物としてしまわれたままだった。
データを思い出しながら、審神者はそっと目を閉じた。
そして目を開くと静かな声で告げた。
「ならきっと、貴方が一番刀として『生きて』いたのはきっと政宗公のもとにいた時だったのかもしれないわね」
その言葉に、普段はあまり揺らぐことのない燭台切が激しい動揺を見せた。
表情を失なったような顔の愛刀に、主たる審神者は優しく続けた。
「きっと、貴方が政宗公とともにあった時間は充実した、とても幸せな時間だったのでしょう」
言葉を受けて、胸をつかれたような顔をした光忠は、思わず知らず自分の眼帯をおおうようにして片手を当てた。
その顔にいつもの完璧な微笑みが広がりかけ…途中で止まった。
何かを言おうと開きかけた唇が、そのままになる。
片目を覆っていた手が広い胸元に当てられた。
「光忠?」
気づかわしげな審神者の声に、何処か戸惑ったような声が返る。
「…おかしいな」
「どうしたの?」
「どうしたんだろう…」
どこか呆然と呟いた後、正座していた広い背中が前かがみになった。
「ここが…痛いわけではないんだけれど…」
更に強く胸元を掴み、黄金色の瞳が苦しげに細められる。
「しくしくと冷たくて…何かが詰まっているみたいに…まるで締め付けられているような…」
「悲しい?切ない?」
穏やかな問いかけに、驚いたような顔がうなずいた。
初めて見る無防備な表情。
審神者は無言で近寄り…そっと膝立ちになった。
そのまま片手で黒髪に手を回し、自分の胸元に引き寄せた。
片方の手は広い背中を抱き、真ん中あたりをぽんぽんと叩く。
幼子をあやすように、ゆっくりとしたリズムで柔らかく。
ごくごく小さく、不規則な呼吸音が響いた。
両手に余る広い肩と背中が身じろぎするように小さく震えた。
よしよし、と審神者は抱き込んだ頭と背中を優しくなでた。
限りない愛しさがこみあげてくるのを感じながら。
それきり静かになってしまった様子に、審神者はそっと見下ろして様子をうかがった。
予想とは違い、彫り深く整った顔に涙の滴の気配はなかった。
それがなぜなのか、気づいたとたんに自らの胸も締め付けられるように痛んだ。
低く啜りあげる吐息に、驚いたような金色の瞳が見上げてくる。
「…泣いているのかい?」
「…ええ」
自らの目が乾いたままなのを自覚しながら肯定し、審神者は刀の化身である彼の頭を再び胸元に抱き寄せた。
「貴方と同じようにね」
言葉を受けて、ぴくりと広い肩幅が反応した。
抱きしめられた形のまま彼の両手が上がり、細い腰と背中に回された。
やがて互いの両手に力が籠り合い、絡み合う深い吐息へとつながった。
外では、静かに雨が降り始めていた。