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さよならヒーロー

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 いつもクールでぶっきらぼうで、誰にも優しくないのに最後はいつも弱い者いじめする敵を蹴散らし助けてくれる。
 そんな勧善懲悪ストーリーにハマっていた。自分が主人公になりたかったわけじゃなかったけど。むしろ、主人公に助けられてから一緒に旅するようになる相棒になりたかった。自分はどうあがいたって主人公みたいに強くなれないし、多分、俺も助けられたいと思ってた。

 マンガの絵柄の下敷きがランドセルから飛び出した。金具がちゃんと留められていなかったみたいだ。
 お気に入りでランドセルには入れていても学校で出したりしないヤツだったのに、他の教科書と一緒になって公園の土の上を滑る。
 怒りたいのに、家で母親に言われた言葉が蘇って唇を噛んだ。
『大事なものは持ち歩かないでしまっておきなさい』
 学校に持ってきた自分が悪いのか。俺が勝手に転んだわけじゃなく、アイツらに突き飛ばされたっていうのに。
 悔しくても殴り返したりできなかった。涙声で文句を言うしかできない。向こうは二人だし、走るのもドッジボールもあっちの方が強い。俺は弱い。勝てないと思うと途端に動けなくなってしまう。
「おい、いつまで座ってんだよ」
「ゲームやろうぜ、ゲーム!負けたヤツがランドセル運ぶんだぜ」
 楽しそうに早口でまくしたてるけどこっちは楽しくない。どうせ俺が負けるからだ。万が一にも向こうが負けたらすぐ「つまんねー」って言って投げ出すのが目に見えてる。やりたくないけど、やらなかったら機嫌を損ねる。
 言いなりになるのも嫌だけど突き飛ばされたり文句を言われたりするのも嫌だ。立ち向かうのも出来ないし、自分の気持ちを言葉にするのも難しい。
 あれも嫌でこれも嫌、何でもかんでも出来ない、難しい、無理だと思ってグズグズしている。誰かが颯爽と現れて、頭上に振り下ろされた剣を間一髪受け止めるみたいに庇って、敵を蹴散らしてほしい。弱っちくても心がキレイだとか、そんな理由で気に入られちゃったりして。現実の俺は特別イイヤツでもないんだけど。
 現実からかけ離れた都合のいいことばっかり考えてる。努力しなくても叶うシナリオの妄想ばっかり。
 いるはずもないヒーローを他力本願で待ち続けていた時だ。
 いつもクールで誰にも優しくないけど弱い者いじめする連中にも負けないヒーローが現れた。
 彼が友達としてそばに置いてくれる限り、俺はなりたかったヒーローの相棒になれた。
 きっといつも足手まといだけど、主人公にあこがれ続けていつかその支えになる、そんなヤツ。



 こんにちはヒーロー



作品名:さよならヒーロー 作家名:3丁目