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ワルツ

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可愛いと思っていた女の子にボーイフレンドと腕を組んで歩いているのを見て、それとなく母さんに尋ねたことがある。
「あら、レオもそんなことが気になる年頃になったのね。そうね、ママが若い頃、車の免許を取ったのが嬉しくて一人でドライブしていたの。だけど道に迷って帰れなくなっちゃって、建物も何もないところで動けなくなって困っちゃったの。そこへ声をかけてくれたのがパパだった。心細いときに知らない車が寄ってきたから、もしかして強盗かと思って心配もしたわ。でもパパったら、こっちが若い女一人だとわかって“鍵は開けなくていいから車の中で待ってて”って。指一本触れないどころか名前も聞いてくれなかった。だから先導してもらって見知った街に出たところで車を停めさせて、こっちから連絡先をきいちゃったのよ」
「じゃあもし父さんの見た目や喋り方が好みじゃなかったら?」
「別に見た目で好きになったわけじゃないけど、結婚するまでに少し時間はかかったかもしれないわね。でも、あの時はそのまま別れちゃいけないと思ったから、いつかはやっぱり結婚していたと思うなあ」
 あの子もボーイフレンドもまだ免許の取れる歳ではなかったし、僕は車に詳しくなる予定もなかった。ただ惚気話の餌食になっただけだった。
「あなたもいつか大事な人に出会ったら、今だっていう瞬間がわかるわよ。絶対に手を伸ばさなくちゃいけないって思う瞬間が」
 ほんとかよ。うっとり語る母の言葉を信じていなくて、そのやりとりはあっという間に忘れてしまった。
作品名:ワルツ 作家名:3丁目