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ワルツ

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 指輪を返したのは寝室で。脱ぎ捨てた服から探し出して渡した。
 前にコレの話をしたときは大事にしている風だったのに、返却されたそれにはあまり興味なさそうにサイドボードの引き出しにしまい込んだ。
「あの、人違いだったらすいませんけど、もしかしてライブラ以前に会ってました?」
 インナーだけのだらしない格好の僕に対し、襟元のボタン以外はベルトも緩めていない彼がベッドの空いた片側に戻ってきて口角で笑う。ビンゴだ。
「それなら早く言ってくれたら良かったのに」
「別に僕だって最初からわかってたわけじゃない。第一、初対面の君は重体で頭も血まみれだったし、しばらく包帯ぐるぐる巻きミイラ状態の入院患者だっただろ」
 そういえばそうだ。めでたくライブラ入りしてすぐの頃、別件で忙しくしていたこの人とは顔を合わせないまま。先に事件に巻き込まれてしまったのだ。大破した異界製トラックの残骸の中で初体面を果たした。当然気絶していた僕にその記憶はないし、気がついたら病院で顔面含めてどこもかしこも包帯だらけ。人工呼吸器もついて喋れもしない。辛うじて耳は聞こえたので一方的な自己紹介だけされたものの、ライブラの番頭役の顔を見たのは事件から一ヶ月も後だった。
 そんな生死を彷徨う事件も経験したことでライブラ入り以前のちょっとした出来事なんて忘却の彼方。指輪を預かるまで少しも思い出さなかった。
「じゃあいつ気づいたんです?」
 退院してからもよく気にかけてくれる他のメンバーに比べちょっと距離があって、ザップさんが冷血漢なんて言うのにもちょっと同意しちゃっていた。叱るのが仕事の先生みたいに思って。それがいつこうなったのか、きっかけらしいきっかけは思い当たらない。
「どこかで見たことがあるとは思ってたよ。でも今の今まで確信はなかった」
「まじすか」
「ああ。でも、指輪を届けられたときにとんでもない物好きがいたもんだとは思ったんだ。なにしろアレ、僕はわざと失くしたんでね」
「ハァァァッ!?」
 どれだけ苦労して届けたと思ってるんだ。毛を逆立てて怒っても尚更愉快そうに頭をなでられる。怒ってる犬だったら噛んでた。
「ビジネスで何度かデートしてただけなのに指輪なんか押し付けてくる女だぞ。毎回忘れずにつけるのも面倒くさいから指輪は失くしてしまおうと思って適当に落としたんだ。人ごみの中で見つかりっこないって思って。そうしたら疲れ切った様子の子供が届けに来たじゃないか。天が彼女に味方するのかと思った」
「それはそれは……余計なことしてすいませんでしたね」
「結局別件で都合が悪くなったんでどのみち彼女とはお別れしたけどね。返しそびれた指輪は手元に残って、捨てそびれてそこの引き出しにしまいっぱなしだった。そのすぐ後だったかな。クラウスが君を拾ったって報告を受けたのは。訊けば素性の下調べもろくにしないまま採用したっていうじゃないか。報告を受けるまでの間には調査は終わってたが、こっちもあちこちの恨みを買ってるから、スパイや裏切りには慎重になる。クラウスは人を信じることに躊躇いがないからそうでもないけど」
 ずっと横たわっていた距離の正体が見えてくる。戦力外だからかと思っていたけれど、それ以前の問題だったみたいだ。
「でも、君ときたら非凡なまでのお人好しだろう。ザップには振り回されっぱなしだし、友人はカメラ泥棒の猿だの菌テロリストの餌食になって超巨大化した小枝男だの。聞けば例のジャック&ロケッツも異界人の友人のために買い食いしてるっていうじゃないか。そもそも、自分自身は家賃も滞納するほどの暮らしぶりなのに妹に仕送りまでして。ライブラの活動資金だって基本額以上は断ってるときた。こんなバカはなかなかいないよ」
 そんな気はしていたけどバカだと思われていたらしいことが判明した。
「映画もろくに見ずに指輪の持ち主を捜しにくるとしたらこんなヤツしかいないだろうってね」
「そこはまあ、義眼もありましたし」
「だとしても簡単じゃなかったのはわかるさ」
 一応労われているのだろうか。眼差しが優しくて、照れくさくて、ふかふかの枕の下に逃げた。
「君と指輪の件を結び付けて考えるようになって再び引き出しから指輪を取り出した。それをたまたまポケットに入れていて、機会があったから鎌をかけてみたわけだ」
「映画もその一環で?」
「いや、何が上映しているかまでは知らなかったよ。そこはたまたまだ」
「あれがなかったら思い出さなかったっすよ」
「そう。運命だったのかな」
 女性との付き合いをあっさりビジネスとかいうわりに大したロマンチストだ。
「それだけじゃない。君に自覚がなくても人生の中でココってときに君が現れた夜もある」
「なんすかそれ」
 スキンシップが始まってから何度も夜を過ごしているし、いつのことかわからない。
「教えられないな。大事な思い出だから」
 悪戯っぽく笑うのが腹が立つほど魅力的だった。結構本気で愛されている気がする。僕はこの期に及んでも何らかの策略を疑っていたのだ。
 ベッドにうつ伏せたままで手を伸ばせば指の背に唇が触れ、引き寄せれば胸に抱き込まれた。
 自分はそのまま彼の恋人になるのだと思っていた。
作品名:ワルツ 作家名:3丁目