続•香り
「馬村が使ってる石けんって何?」
馬村からいつも仄かに香る石けんと、
同じものが欲しくて、
すずめは馬村に訊ねた。
「知らねえよ。」
「風呂場に出してあるの
使ってるだけだしな。」
特にこだわりがあるわけでもなく、
意識したこともないので、
石けんに何を使っているか聞かれても、
馬村は答えようがなかった。
「わかんないのか…」
すずめは少し残念そうに言った。
「ちょっと待ってろ。」
そう言って馬村は一階に降りていき、
また戻ってきて、
「ほらよ。」
と金色の四角い小さい包みを
すずめに渡した。
「これ、石けん?」
見たことがない包みだった。
「やる。」
その小さな包みには、
『京都俵屋旅館』と
書いてあった。
「なんか高そう…
旅館って書いてある。」
「オレも今見て初めて気づいた。」
「いつも使ってるのがこれ?
こんな高そうなの、
もらえないよ。」
「どうせ親父の
もらいもんかなんかだろ。」
すずめはクンクンと
その高級そうな石けんを匂ってみた。
「あ、でも馬村の石けんの匂いがする。」
いつも馬村から香る匂いよりも濃いめだが、
確かにあの香りだ。
どことなくエキゾチックだけど、
すごく落ち着く。
こんなの使ってたんだ。
「でもやっぱりもらえないよ。」
すずめは遠慮して
石けんを馬村に返そうとした。
「オレがいいって言ってんだから
いいんだよ。」
馬村はそう言って
すずめの手にもう一度
石けんを握らせた。
最初すずめに
同じ石けんが欲しいと言われた時は、
なんで?と思ったが、
すずめがこの石けんで
自分を思い出してくれるなら嬉しい、と
馬村は思い直したのだ。
馬村にそう言われてすずめは、
少し躊躇ったが、
「ありがとう。」
と、素直に受け取り、
その石けんを
制服のポケットに入れた。
馬村に送ってもらって家に帰り、
すずめは包みのままの石けんを
再び匂ってみる。
「馬村がここにいるみたい。」
すずめは馬村といる時のように、
温かい気持ちになった。
でも石けんは1つしかないので、
使えば当たり前だが
無くなってしまう。
ドラッグストアでは買えそうにないので
大事にしないと、とすずめは思った。
「あ!そうだ!」
すずめは、もらった石けんを
枕の下に敷いて寝ることにした。
石けんが鼻に近いと香りが強いが、
枕の下なら仄かに香るし、
使うわけではないので無くならない。
「これならいいかも。」
そう思って布団をかぶり、
目をつぶったが、
しばらくしてガバァっと起きて、
「逆にドキドキして寝られない…」
と赤くなって呟いた。
まるで馬村と一緒に寝ているような
錯覚に陥る。
同じ香りだったら
馬村といつも一緒にいる気がするとか、
何てことを自分は
本人に向かって言ったんだと、
今更ながらにすずめは
恥ずかしくなった。
「寝るときは落ち着かないから
枕元はやめよう。」
そうして、どうするか
あれこれすずめは考えて、
結局、手持ちの巾着の中に石けんを入れ、
制服の間にぶらさげることにした。
「これでよし。」
なかなかいいアイデアだと満足して、
すずめはようやく眠った。
少し枕に残った香りに
ドキドキしながら。
馬村からいつも仄かに香る石けんと、
同じものが欲しくて、
すずめは馬村に訊ねた。
「知らねえよ。」
「風呂場に出してあるの
使ってるだけだしな。」
特にこだわりがあるわけでもなく、
意識したこともないので、
石けんに何を使っているか聞かれても、
馬村は答えようがなかった。
「わかんないのか…」
すずめは少し残念そうに言った。
「ちょっと待ってろ。」
そう言って馬村は一階に降りていき、
また戻ってきて、
「ほらよ。」
と金色の四角い小さい包みを
すずめに渡した。
「これ、石けん?」
見たことがない包みだった。
「やる。」
その小さな包みには、
『京都俵屋旅館』と
書いてあった。
「なんか高そう…
旅館って書いてある。」
「オレも今見て初めて気づいた。」
「いつも使ってるのがこれ?
こんな高そうなの、
もらえないよ。」
「どうせ親父の
もらいもんかなんかだろ。」
すずめはクンクンと
その高級そうな石けんを匂ってみた。
「あ、でも馬村の石けんの匂いがする。」
いつも馬村から香る匂いよりも濃いめだが、
確かにあの香りだ。
どことなくエキゾチックだけど、
すごく落ち着く。
こんなの使ってたんだ。
「でもやっぱりもらえないよ。」
すずめは遠慮して
石けんを馬村に返そうとした。
「オレがいいって言ってんだから
いいんだよ。」
馬村はそう言って
すずめの手にもう一度
石けんを握らせた。
最初すずめに
同じ石けんが欲しいと言われた時は、
なんで?と思ったが、
すずめがこの石けんで
自分を思い出してくれるなら嬉しい、と
馬村は思い直したのだ。
馬村にそう言われてすずめは、
少し躊躇ったが、
「ありがとう。」
と、素直に受け取り、
その石けんを
制服のポケットに入れた。
馬村に送ってもらって家に帰り、
すずめは包みのままの石けんを
再び匂ってみる。
「馬村がここにいるみたい。」
すずめは馬村といる時のように、
温かい気持ちになった。
でも石けんは1つしかないので、
使えば当たり前だが
無くなってしまう。
ドラッグストアでは買えそうにないので
大事にしないと、とすずめは思った。
「あ!そうだ!」
すずめは、もらった石けんを
枕の下に敷いて寝ることにした。
石けんが鼻に近いと香りが強いが、
枕の下なら仄かに香るし、
使うわけではないので無くならない。
「これならいいかも。」
そう思って布団をかぶり、
目をつぶったが、
しばらくしてガバァっと起きて、
「逆にドキドキして寝られない…」
と赤くなって呟いた。
まるで馬村と一緒に寝ているような
錯覚に陥る。
同じ香りだったら
馬村といつも一緒にいる気がするとか、
何てことを自分は
本人に向かって言ったんだと、
今更ながらにすずめは
恥ずかしくなった。
「寝るときは落ち着かないから
枕元はやめよう。」
そうして、どうするか
あれこれすずめは考えて、
結局、手持ちの巾着の中に石けんを入れ、
制服の間にぶらさげることにした。
「これでよし。」
なかなかいいアイデアだと満足して、
すずめはようやく眠った。
少し枕に残った香りに
ドキドキしながら。