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比翼連理 〜外伝2〜

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「―――行儀は悪いが、目覚めはよいぞ。シャカ」

 絢爛たる寝台の上で無防備に寝倒けていたハーデスの腹の上に全裸でどっかりと腰を落とし、見下ろしていた金の影に気付いたハーデスは大して驚きもせずにスッと腕を伸ばした。肉付きの薄い華奢な腕を掴もうとしたようだが、ぱしりと軽く払われ、仕方のなさそうに緩い笑みをハーデスは浮かべてみせた。

「行儀が悪いだと?そんなことを言えた義理ではあるまい!?おまえは何を考えて……危うく私は……っ!少しは反省したまえ!」
 空間も時刻も自己をも喪失しかけるほどの領域に落とされた。容赦ないハーデスに散々な目に会わされた。
 そこでの遊戯はひどく危険で刺激的なものだった。身を削り、骨さえも軋ませ、ひたすらにあえいだ。声を嗄らすほどに溺れた。煽られるままにもぎ取られた木の葉のように、もしくは散る花のような脆く儚いものでしかないのだと突きつけ、その存在を構成する一つとして強いるような荒々しい風としてのハーデスを知った。
 シャカはあの深い場所自体、まるでハーデスそのもののようにさえ、今ならば思えた。警戒心もなく、踏み込んだおのれが迂闊といえば迂闊なのだが、悔しいこと限りない。闇に溶け、おぼろげだった意識がはっきりとした時には微かにハープの音が聴こえるこの場所に居た。ハーデスに嬲られたことが夢幻ではなかったことは己が身を見れば云わずと知れた。
 「さぁ、何のことだ?」と悪戯にシャカの肌に指をすべらせながら嘯くハーデスに誤魔化されはしないと険しい表情をシャカは作ってみせたが。ハーデスは小さな欠伸を掌で隠し、まだ重たげな瞼を精一杯押し開いていた。よくよく観察すれば、僅かにだが頬に影がある。疲弊しているようにも見えなくはなかった。

「あれだけ好き放題すれば……さすがに疲れもするであろうな」

 皮肉たっぷりに言いながらもシャカはそっと手を伸ばし、ハーデスの頬に手を宛がった。ハーデスは心地よさげに瞳を閉じた。うっかりすればそのまま寝付いてしまうのではないかと思うほど、安らかに見える。

「あれしきで疲れるわけはない……が、眠りは足りぬようだ。双子たちの兄弟喧嘩は見物であったからな……寝不足となった」

 瞳は閉じたまま頬に宛がわれたシャカの手を掴んだハーデスはそのままシャカを引き寄せ、サワサワと滑る髪に指を差し入れ、その感触を楽しんでいる。

「眠神はまだ機嫌を損ねたままなのか?」

 少しだけ頭を浮かせてハーデスを見ると、眠ったようにしか見えなかったが、それでも口元は緩慢に動いていた。

「いや……兄弟喧嘩は……もう……ったよう…だ……エリ…シ……オンから……」

 ついには寝息に変わろうとしていたが、しっかりとシャカの手を握ったままである。動けばまた眠りを妨げることになるだろうと諦めてそのままの姿勢を保ちながら、シャカは象の心臓ほどに遅く、緩やかに打つハーデスの鼓動を耳にした。
 このまま永遠に止まっていまいそうなほどに打つ心音。人と同じく、肉体のあらゆる組織へと血を行き渡らせ、流すために存在するものなのだろうか…?
 否、人には欠けることのできぬ大切な器官であろうとも、この男からすれば大した意味もなく、ただ退化させることを忘れ、かろうじて存在しているだけにすぎないような気さえ沸き起こった。

「おまえにとって必要不可欠なものなのか――確かめようと思えば、今、確かめることができるがな」

 何を警戒することも無く、ただ無防備に眠りを貪っているのだから。
 好奇心と共に恨みごとを晴らすには良い機会であろう。しかし、実行するにしても相手がこうも無防備だと己を律するしかないとシャカは諦めた。兄弟喧嘩を眺めていて寝不足とは聞いて呆れる。もう少し気の利いた嘘でもつけばよいものをと思いながら、シャカはほくそ笑んだ。
 ハーデスの眠りがヒュプノスによって齎されるものだとすれば、恐らくその眠りを一瞬にして妨げ、奪うこともあの男なら容易いのではないだろうか。そして、そんな暴挙もハーデスは咎めたりはしないはず。小さな反撃だと笑いながら受け止めてきたのではないのだろうか。神代の時から繋がる契りは切れることのないまま、むしろ絡み、縺れて固く結ばれた結束。これから先も解かれることはないだろう。ゆっくりと邪気を祓うように起き上がったシャカは背後を振り返り、刺すような眼差しへと語りかけた。

「おまえたちの絆が幸なのか、はたまた不幸なのかなどということを私が推し量ることなど必要はないのだろうな」
「――いかにも」

 脱ぎ散らかされた衣の一つを拾い上げ、ざっくりと羽織ると円卓の上に置かれた水差しに手を伸ばした。喉の渇きを癒しながら椅子に腰掛ける。無粋な侵入者は入れ替わるようにして静かに寝台へと歩み寄り、ハーデスを覗き見ていた。

 ―――無垢の眼差しだな。

 ハーデスを覗き見る黄金色に輝く髪と同色の瞳を見ながら、シャカは思いつつも口には出さなかった。反感を買うことは目に見えていたからだ。絶対的な想いを抱きながら、決して報われることのない心はどのような音を奏でるのだろう。
 神々が織り成す美しい音色に耳を傾けながら、眠りにつきたいものだとシャカはひっそりと笑んだ。




Fin.
作品名:比翼連理 〜外伝2〜 作家名:千珠