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タイムスリップ (1)

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「映画とかでは、元の年代に強く帰りたいって
 思えば元に戻れたりするけど。」

「思ってるよ~。」

「もし未来に今のオマエが行ってるとしたら、
 一緒に思わないとダメなのかも…」

「未来に行った自分と
 どうやってコンタクトとるの?」

「テレパシーとか?」

「そんなの何にも感じないよー。」

「…映画みたいにはうまくいかねえか。」

「ここに来る前、過去に戻れたら
 って思ったりしなかったか?」

「え…うーん…あ!」

「あるのか?」

「いや、大輝といてあんまり幸せだから、
 未来の自分に、大輝といれば
 底なしに幸せになれるよって
 伝えたいな、とは思ったけど。」

「底なしって…
 オマエは他に言い方ねえのかよ。」

「ふ…やっぱり大輝は大輝だね。」

「何だよ。」

「同じセリフを6年後でも聞いたから。」

「オマエが変わらなすぎんだろ。」

でも自分といて底なしに幸せと
思ってくれてるのが
大輝は何より嬉しかった。

だけど、それを伝える相手が
代わりに未来に行ってるとしたら、
伝えようがないので、
思念も成就しようがない。

大輝はどんづまりになって
頭を抱えた。

すずめは考え疲れて、
改めて自分の部屋を見回した。

今の部屋とは微妙に違う。

ベッドのシーツも
前に使ってたヤツだ。

壁に高校生の自分と
ゆゆかちゃん達と撮った写真が
飾ってあった。

馬村と付き合い始めたばかりかな。

部屋の隅に人生ゲームと、
おじさんのアルバムが置かれたままだ。


「ふ…このアルバム。懐かしい。」

すずめが言うと、

「ああ、おじさんのとかって
 日曜に見せてもらって…」

「一緒に見てる時、実は
 先生が写ってるのをみつけて。」

「え…」

「嫌な雰囲気にしたくなくて
 見せまいとしたら、
 逆に変な空気になっちゃって…」

「そうだったのか…」

「大輝を失いたくなくて…」

「友達じゃなくて彼氏になって
 いつか終わって大輝を失ったら
 もう立ち直れないとか
 そんなことばっかり思ってて。」

「……」

大輝はすずめの言葉を
黙って聞いていた。

「自分の選択は間違ってないか、
 友達だったらずっと一緒に
 いられるんじゃないのか、
 大輝と付き合って間違いじゃないのか
 もう失ったりしないのかって
 すごく悩んだんだよ…」

「オレはオマエが幸せなら
 なんでもいいけど…」

大輝がすずめの告白を受け、
静かに言葉を紡ぐ。

「オレが幸せにできるなら
 それが一番いいと思ってる。」


「うん。6年後の私はね、
 大輝といるときが一番幸せだよ。」

少年大輝は嬉しくて、思わず
大人のすずめを抱きしめた。


ふわっとまた、石けんの匂いがした。

週末、大人の大輝からした匂いとは
また少し違っていた。

懐かしい香りにクラクラ酔って、
そのまますずめは、
力が抜け、大輝の腕から崩れ落ちた。


「オイッ?オイッ!」

自分を呼ぶ
少年大輝の声が
小さくなっていった。
作品名:タイムスリップ (1) 作家名:りんりん