黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 22
ガルシア達がフォレアを助けに行った時、フォレアの体は一部魔物と化していた。しかし、時が経つにつれ、フォレアの体は少しずつ元通りになっていった。術を施したバルログが消えたため、特別な事をせずとも魔物化も解けていくようであった。
しかし、まだフォレアの意識は戻っていない。目覚めるのにはしばらくかかりそうな様子である。
「本当に、お主らにはなんと感謝すればいいか……!」
フォイアーは、その強面に涙を流しながら、ガルシア達に何度も礼を言った。
「……マグマロックに魔物が現れた時といい、今回の孫娘を救出してくれた事といい。……何度感謝しても足りん!」
フォイアーは、乱暴に顔を擦り、涙や鼻水を拭う。
「ボルケイ村の長として、そして何より、大切な孫の祖父の一人として何か礼の品を与えてやりたい所だが……、村がこんな状態だ。とてもそんな余裕がない」
「気にしないでくれ、フォイアー殿。キボンボ村もそうだったが、早急にデュラハンを倒さねば、いつまた暴徒が生まれるか分からん。どうかフォイアー殿は村長として、民を導いてくれ」
ガルシアは、フォイアーを宥め、そして諭すのであった。
「そうです。僕達も仲間を囚われているんです。バルログと戦うのは、絶対に避けられない道でした」
ピカードも言う。
「さて、フォイアー殿。名残惜しいが、俺達はもう行かなければ」
「せめて、元気になったお孫さんに挨拶してから行きたかったですけど、僕達には時間がないのです」
ガルシア達は、卓を立った。
「フォレアが目を覚ましたら、よろしく言っておいてね。フォイアーさん」
ジャスミンも挨拶を済ませる。
「うむ、お主らは、あのデュラハンに戦いを挑むのであったな。遠いところからだが、フォレア共々健闘を祈っておるぞ」
ガルシア達は、フォイアーに一礼し、彼の家を後にした。
家を出ると、外でメガエラが腕組をして立っていた。
メガエラもガルシア達と共に、マグマロックから連れられ、ここにやって来たが、特別な治療を施すことなく自然に回復していた。
女神に備わる力こそが、そのような事を可能にしていた。
「…………」
メガエラはむすっ、とした表情で黙っている。
ピカードはガルシアに耳打ちした。
「どうします、ガルシア。メガエラには話しすら通用しないじゃないですか?」
メガエラが気が付いたとき、ガルシアは一度、同行の願いをしていた。しかし、メガエラの答えは断じて否であった。
「ふむ……」
ガルシアは困り果てていた。しかし、ひとまずもう一度、頼んでみることにする。
「なあ、メガエラ。マグマロックでも話したが、俺達はイリスとシバを助けるためにデュラハンを倒さなければならない。デュラハンは強大な敵だ。仲間は多いことに越したことはない。共に来てはもらえぬか?」
「嫌よ」
ガルシアの説得はむなしく、一言で一蹴されてしまった。
「う、うーむ……」
ガルシアは言葉を失い、苦笑する。
「ねえ、メガエラ。私達についてくるつもりがないんだったら、どうしてずっとここにいるのかしら?」
ふと、ジャスミンが声をかけた。
メガエラは、ジャスミンの言葉には強く反応した。
「別に、あなたには関係ないでしょ……。何て言うか、その……」
メガエラは何か、言い淀んでいる。
「うーん、確かにそうねぇ、別にあなたが絶対に来なければいけない事はないし。兄さん、行きましょ。確かここから一瞬で移動できるものがあるんだったわよね?」
「うん? あ、ああ……」
ジャスミンに言われ、ガルシアは、もうメガエラを説得するのを諦めた。そして、ハイディアとマグマロックを結ぶ橋の役割をするオーブ、アネモスオーブを取り出す。
アネモスオーブは、一度ガルシアとピカードをここへ運んだ際に力を解き放たれた際にひび割れており、もう一度使えば壊れるようになっていた。
「ま、待ちなさい!」
ガルシアがアネモスオーブの力を放とうとした時だった。
メガエラが叫び、彼らを引き留めた。
「……その、やっぱり、一緒に行ってあげないこともない、わ……」
メガエラは視線をそらし、語尾をあやふやにして歯切れ悪く言った。
「何だって?」
ガルシアは自分の耳を疑った。これまで何を言っても、答えを否としていたメガエラが、今になって一緒に行くことを自ら言ってきたのだ。
「だから、えーと……」
メガエラは頑として顔を向けず、言葉を探るようにぶつぶつと喋っている。
「デュラハン……、そう! デュラハンと戦うつもりなんでしょ、あなた達。私にとってもデュラハンは敵! 仕方がないから手を貸してあげるって言ってるのよ!」
手を貸してくれるという事は分かったが、それにしても、回りくどい言い方である。
「あなたの力なんかなくたって、別に平気だと思うけど?」
せっかく話が上手く行きそうな所に、ジャスミンが口をはさんだ。
「ジャスミン、何を!?」
「いいから、私に任せて、兄さん。メガエラを上手く丸め込むから」
ガルシアとジャスミンは、小声で話し合う。
「ねえ、メガエラ、あなた確か言ってたわよね? あなたに勝てないようじゃ、デュラハンには絶対に勝てないって」
「そ、そうよ! だから私も力を貸してあげるって言ってるのよ。ありがたく思いなさい!」
ふーん、とジャスミンはにやにやと笑った。
「何よ、その顔は!?」
「別にぃ。ただ、メガエラ。あなた私に負けたわよね? 私より強いんだったらともかく、弱いんじゃ戦力にならなそうよねぇ」
「なぁっ!?」
メガエラの顔が真っ赤になった。
「あら、本当の事言われて怒ったのかしら?」
「言ってくれるじゃない……! だったら、こっちもはっきり言うわ。あの勝負はまぐれで、そう、まぐれであなたが勝った。でもまぐれだから、次に戦ったら私が勝つわ! ……だから、えーと……、うーんと……」
メガエラは、また言葉につまった。
「何よ、はっきり言うとか言って、はっきりしないわね」
「うるさい! えーと……、だから、……ジャスミン、あなたを守るわ!」
メガエラは指さして叫んだ。
少しの間が空いた。そしてメガエラの言葉に、余裕を見せていたジャスミンは驚いてしまった。
「ええっ!?」
「はっ、いや、違っ! 別にあなたが好き、とかじゃなくて……!」
「すすす、好きぃ!?」
ジャスミンまで、顔が燃え上がりそうなほど赤面した。
「はっ、いや、だから違うの! 私は復讐の女神、メガエラ! 私を破った者には復讐しなきゃ気がすまないの! でも、復讐する相手、ジャスミンはデュラハンと戦おうとしてる。そこであなたがデュラハンにやられたら困るのよ。だからやられないように守るって言ったの! 勘違いしないでよね、あなたを倒すのは私なんだから!」
メガエラの長々とした弁解を聞き、ジャスミンは少しずつ落ち着きを取り戻す。
「そ、そうよね。びっくりした……。女の子から好きとか言われても、困るって言うか、なんていうか……」
「はあっ!? そそ、そんなわけないじゃない!?」
「だから、それは私の誤解、っていうか誤解を招くような事言い出したのメガエラでしょ!?」
「……なあ、二人とも」
ガルシアはおずおずと口をはさんだ。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 22 作家名:綾田宗