懺悔
そうかもしれない。最初から少年には理解されないものだと思っていたのだ。それが予想外に認められたものだから、俺は戸惑っていたらしい。
「大丈夫です。クラウスさんにも、誰にも言いませんから。なんならついでに愚痴ってくれたっていいですよ」
「そうだなあ、じゃあ……」
氷嚢を持った手を外させた。驚かせたお蔭で頭をなでていた手が離れて行ってしまう。
「少しの間でいいから抱きしめさせてくれないか」
「は、え、は」
「ダメ?」
「い、いいですけど」
律儀に両腕を広げて迎えてくれるので脇の下から腕を回して小さな肩口に顔を伏せた。一回り以上も上の大きな男にそんなことをされてガチガチになっていたけれど、少しするとそんな状況にも慣れて後頭部を撫で始める。
そういえば少年には妹がいた。元々面倒見のいい子だ。妹と二人で選択を迫られたときに恐怖で動けなかったという、それこそ仕方のない罪を抱えて自分自身を許していない。それなのに何人もの他人の人生を奪った俺を許すのだ。
誰にも打ち明けない罪を誰かに許される日が来るなんて思ってもみなかった。
許されなくてもやることは変わらない。世界の均衡を保つためには悔いている暇などないのだから。
一か月ぶりに仕事を頼んだ私設部隊を見送って一人になったその足で移動中に教会の前を通りかかった。
キリスト教徒は懺悔だとか告解だとか言って神父に罪を打ち明けて悔い改める。一人の胸の内に抱えきれないものがあるものだ。
だが元から改める気持ちのない人間には無縁のもの。神は悔い改めなければ許しを与えてくれないのだ。
肩を落とした信者が扉を押して入っていくのを見届けて少年との待ち合わせのパン屋に向けて歩いた。