魔法少年とーりす☆マギカ 第十二話
聖地を守るべく旅立った若者達の最期も知らず、ふざけ半分でその名を冠する異教徒に少々の私刑を下す。 最初の彼の異端審問は精々その程度のつもりであった。 親友と共にグリーフシードを囲い込み、自分達の罪深さを自覚させ、彼らが反省し既に亡き少年達への祈りを捧げたなら、行いを許し、すぐに奪った力の源を返す。 そのつもりであった。
しかし間に合わなかった。 魔女と化し無残な亡骸を晒す二人と、親友に抱えられ、左腕を失った重傷で救急車に運ばれる一人。 何かを訴える、妖精と名乗る銀髪の男。
彼らが何を言っていたのか、そして其れから数日間の筋道は、最早少年の記憶にはない。
今の様な、雲の間から僅かに光が差し途切れ途切れに地を照らしていたその日、不幸にも魔女の口づけを受けたアントーニョは、家族との無理心中を画策。 気付けば家宝の西洋かぶれな銀製ナイフを手に、血濡れの自宅で、意識の無い弟と絶命した両親を前に立ち尽くし、無意識の内に、狂気の殺人者となっていた事だけは確かであった。 悪を滅ぼさねば。 魔女を、魔法少年を、魔法少女を、殺さねば。 全て何もかも、消し去らねば。
濃い草色の瞳は淀み、容易く狂信の呪いに歪んでいった。
「俺には父も子も、魂もなんもない」
深緑の宣教者、異端審問官の両の手に長い一本が形作られていく。 父母を殺めた狂気のシルエットを思考から吹き払う様に生み出されていく、重々しく分厚い無骨な半月状が横向きに括られた華奢な長柄。 聖職者の姿とも、ヒスパニック系の顔立ちにも似合わぬ重厚な銀製バルディッシュが緩慢かつ鈍重に風を切る。
フェリクスは見届ける間もなく右手を開いてボロボロの床を打ち、悲鳴を上げながら強引に反魔法の純銀を引き抜いた。
「やから天使が現れたんや。 俺、選ばれたんや… 神の御許は浄罪の力を与え、この穢れた世界を生み出した悪魔たちを狩る力を、【魔女狩り】の力を授かった! お前は俺に絶対勝てへん!」
魔法少年にしては恐ろしく緩慢で、恐ろしくたどたどしい足取りの響きが灰色の世界を埋め尽くす。
この程度の相手など取るに足らない腕を持つ筈の、緋の魔法少年は畏怖に身を鈍らせていた。 希望も絶望も無に帰す、無慈悲な処刑人の残酷無比な魔法を目の前にして! バラック階段のステップはもうすぐ傍に差し迫っていた。
作品名:魔法少年とーりす☆マギカ 第十二話 作家名:靴ベラジカ