甘くて酸っぱい・・・
東京に戻って家まで送ってもらっても、
やっぱり手は繋いだままで。
久しぶりで、すずめは初めて馬村と
手を繋いだ時みたいに緊張した。
馬村は、お互いの口にいちごを入れる、
という行為のほうが
よっぽど恥ずかしかったらしく、
手を繋ぐことに躊躇いがなくなっていた。
家の前まできて、馬村が徐ろに
「やる。」と言って、
きれいに包装された箱をくれた。
「え?何これ。」
「ホワイトデーだから。お返し。」
「え、でもいちご狩り行ったよ?」
「いいから受けとれよ。」
「あ…ありがとう。開けていい?」
「ここでかよ。」
すずめがガサガサ包みを開けると、
中はいちご柄のマグカップが入っていた。
「かわいい!ありがとう、馬村!
これ…馬村が買いに行ったの?」
すずめはつい馬村が
ファンシーなグッズのお店で
並んで買っているのを想像してしまった。
似合わなすぎる…
「何想像してんだよ。
親父の買い物の荷物持ちにつきあわされて
そこでたまたまみつけたんだよ。」
「なんだ。雑貨屋さんに並んでるんだったら
面白かったのに。」
「バーカ。」
「今日も楽しかった。
連れてってくれてありがとう。馬村。
嬉しかったよ。いちごもカップも。」
馬村はすずめの言葉を聞いて、
すずめのおでこにキスをした。
すずめはおでこに手をあてて頬を染めた。
「いつまでも距離空けてんのもなんだしな。」
そう言って馬村も少し頬を染めて
「じゃあな。」と帰っていった。
「また月曜学校で。」と言って
すずめも手を振った。
「あれ、すずめ、お帰り。
楽しかったかい?」
すずめが家に入ると、
諭吉が夜のカフェバーが始まる前に
うちに帰って用意をしているところだった。
「うん!甘酸っぱくて美味しくて
お腹いっぱい食べた。」
「おじさん、いいとこ教えてくれてありがとう。
あ、ジャム、これお土産。」
「そりゃよかった。
お土産なんてよかったのに。ん?
そのカップはどうしたんだい?
それも買ってきたの?」
「これは馬村がホワイトデーのお返しってくれた。」
「…ウェッジウッド…
これ馬村くんが選んだのかな。」
「え?お父さんの買い物についてって
たまたま見つけたって言ってたよ。」
「へえ…すずめはわらしべ長者みたいだね…」
「??」
すずめはその夜、
馬村がくれたカップで、
おじさんのいれた
ストロベリーティーを飲んだ。
「いちご尽くしだなぁ。」
甘くて酸っぱい香りに包まれながら、
香りと同じような幸せな気持ちで、
すずめは眠りについた。
作品名:甘くて酸っぱい・・・ 作家名:りんりん