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甘くて酸っぱい・・・

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そして3月14日。

「着いたー!」

電車でそう遠くない距離に
ビニールハウスがたくさん並ぶ
いちご農家にたどりついた。

予約不要と書いてあったけど、
土曜日のせいか人が多い。

30分は食べ放題なんだそうだ。

「いちごばっかり30分も食えねえよ。」

「馬村はそう言うと思って、ほら!」

すずめが取り出したのは
練乳のチューブだった。

「飽きたらこれつけて食べればいいよ。」

「用意周到だな…」

受付を済ませると、
二つに別れたパックを渡された。

片方にいちご、
もう片方には練乳を入れるらしい。

「練乳持ってきてよかったね。」

すずめはずっとテンションが高いまんまだ。

馬村はさっそく入口のほうで
適当にいちごを取ろうとすると、

「馬村!奥のほうが甘いんだよ!」

と、すずめはズンズン進んでいく。

「オマエやけに詳しいな。」

「小さい頃田舎で
 連れてってもらったことがあるから。」

「ふーん。」

「あ、これ、馬村!これ絶対甘い!」

すずめが1つ真っ赤ないちごを採って、
ヘタをとったかと思ったら、
馬村の口に「ハイ。」と入れた。

「っ…/////」

唇にすずめの指が当たる。

その行為に馬村は少し恥ずかしくなったが、
すずめはいちごに夢中で
何も考えてないようだった。

「…甘い。」

「ね?」

すずめが満面の笑みを浮かべ、
自分のを採り始めた。

馬村は正直いちごには
そんなに興味がなかったが、
いちご狩りは悪くないなと思った。

「ほら、口開けろ。」

馬村もいちごを採って
すずめの口に放り込んだ。

「っ!」

食べた途端にすずめが顔をしかめる。

「わ、これ酸っぱい!
 馬村どれ採ったの?」

馬村が採ったいちごのほうを見ると、
まだ半分白くて緑の部分が残った、
熟してないいちごだった。

「まだ熟してないじゃん!」

「こういうの食べた後の方が
 赤いの食べた時、
 甘く感じるんじゃねえの?」

「何だよ、もう!」

馬村は珍しく、クックックッと
楽しそうに笑っている。

「ヘタのほうから食べると
 甘く感じるんだよ。
 食べくらべてみて?」

同じとこについてたいちごを、
1つは先っぽから、またすずめは
馬村の口に入れてやる。

「フツーだけど?」

「じゃあ、こっちは?」

もう1つはヘタのついてたほうから
口に入れてやる。

「ん?」

「ね?同じいちごでも違わない?」

「ん。」

すずめは、いちごを素直に
頬張って味わっている馬村が、
なんとなくかわいいと思った。

「いちごと馬村ってなんか似合わないね。」

「てめえ。オレだって恥ずかしいわ。」

そう文句を言いつつも、
馬村はワクワク顔のすずめには弱く、

すずめの笑顔ひとつで
「ま、いっか。」と思ってしまう。

すずめはドンドンと勢い良く食べて、
パックには緑のヘタが山になっていた。

「食い過ぎじゃねえの?
 腹壊すなよ。」

「馬村はもっと食べないと
 もったいないよ。」

「入場料分は堪能したからいい。」

「?そう?」

こういうところでもなければ、
お互いの口に食べ物を入れる、
なんて恥ずかしいことは到底できない。

いわゆる、はい、あーんして。の状態。

でもすずめは全然意識してなくて、
ただもう甘いのを馬村に食べさせたい
それしか考えてなかった。

こっちのいちごはどうか、
これ食べてみて、とやっていたら、
あっという間に30分が来てしまった。

「えっもう30分経ったの?」

「短けえな。」

「あ、おじさんにいちごジャム買って帰ろ。」

すずめは入口で売っていたジャムを買うと、
馬村が「ん。」と言って手を出し、
袋を持ってくれた。

そして反対の手をごく自然に繋いだ。

すずめはまた
ポカポカとあたたかい気持ちになった。

それが自分のためとはいえ、
微妙な距離をとられるのは
やっぱり少し寂しかったのだ。

でもこうして自然に触れ合えると、
素直に嬉しいと思う。

「いちごは買わなくていいのかよ。」

「うん。もうお腹いっぱいだし。」

手を繋いだまま、ゆっくり駅まで歩いた。

作品名:甘くて酸っぱい・・・ 作家名:りんりん