キスのあとは
ひるなかの流星【キスのあとは】
すずめ高校2年生、沖縄の後のお話。
学校の帰りに馬村のうちに寄り道。
だけど、馬村の男の部分を受け入れることができなくて…。
夏休みも終わり、高校2年生の2学期が始まった。
今年の夏は本当に色々なことがあり、泣いたり笑ったりして、振り返れば結局、笑って思い出せる日がいつか来るだろうとすずめは思うことにしている。
だから、馬村にも、もしかしたら先生のこと思い出して切なくなったり、似た人を目で追ってしまったり、そんなことはこれからもあるかもしれない、でもそれは思い出を振り返っているだけ、馬村への気持ちは変わらないから、不安に思わないでほしいと話をしたばかりだ。
学校の帰り道、まだまだ2人きりで帰ることに慣れないが、先生と一緒にいた時のような不安な気持ちを感じることは全くなく、何度も好きだと言葉で伝えてくれた馬村のことを好きになって良かったと日々思う。
すずめの胸元には、沖縄土産で、馬村からもらったネックレスが光っている。
「それ、してんだな」
馬村が、首元を指差して何でもないことのように言うが、心なしか嬉しそうに見える。
「うん。こういうのしたことないから、嬉しかったし…」
表情の少ない馬村が、恥ずかしそうな嬉しそうな顔をする、好きな人が喜んでくれることがこんなにも嬉しいことだと教えてくれた。
「あのさ、これから…うち来るか?」
顔を赤らめて目を見ずに誘ってくる馬村に、すずめは馬村の手を取るとキュッと握る。
「うん、行く」
2人とも会話も出来ないまま、手を繋いで家まで歩く。
顔が熱い…。
「お邪魔しまーす。あれ?大地まだ帰ってないの?」
「…みたいだな。そのうち帰って来るだろ、先に俺の部屋行ってて」
すずめは、しんとした部屋に入ると、急に緊張して、持っていたカバンの紐をギューギュー掴んでしまう。
前に来た時には父も大地もいた。
うちに遊びに来た時にはおじさんもいた。
2人っきりは、沖縄の水族館以来で、しかも部屋に…というのは初めてかもしれない。
考えれば考えるほど緊張が増し、どうしょうもなくなってしまった。
自分でも顔が熱くなるのが分かる。
とりあえず落ち着こうと、ベッドの横に腰を下ろし、鞄からオニギリを取り出して食べる。
お腹も空いていたし、ちょうどよかったとすずめは思った。
「おま…なに食ってんの」
「ん?オニギリ…お腹減ったから。馬村も食べる?」
「いらね…」
馬村が部屋に入ると、ちょうどすずめがオニギリにかじりついたところだった。
彼女を家に呼んだことで、多少なりとも緊張していた馬村はガクッと肩を落とした。
(色気なさすぎだろ…)
まあそんなもんかと、少しばかりしていた期待を打ち消した。
こうして2人で居られることが、奇跡のようなものなのだから。
「ほら、お茶…」
「ありがとう」
口いっぱいに頬張りむせそうになったすずめに、持ってきたばかりのお茶を渡し、すずめのすぐ横に座った。
「おまえ、手にも顔にも米付いてるすぞ…」
口のすぐ横に付いていた米粒を取ろうと手を伸ばすと、かなり近くにお互いの顔があることに気がつく。
顔に触れられたことで、馬村以上に驚いて真っ赤になるすずめに、一応意識してくれてたのかと嬉しくなった。
「やっぱり、食う…」
すずめの頬に付いた米粒を、舌で舐め取り、手についた米も指ごと口に含む。
「味、わかんねぇな」
何が起こったのかも分からず、涙目で顔を赤くするすずめに、何も考えさせないようにとすぐ行動を起こした。
すずめが持っているオニギリを口に含むと、口移しですずめに食べさせた。
「ふっ…ん〜、な…に」
「うまい?」
「…っ、味なんか分かんないよっ〜」
「じゃあ、お茶いる?」
すずめの肩を抱いて、お茶をまた口移しされると、飲み込みきれなかったお茶が、口の端から零れ落ちる。
「んっ…はぁ…ま、むら…」
今にも涙が溢れそうなほど目は潤み、馬村の制服のシャツを掴む手は、やはり女の子のもので、抱きしめてみると意外なほど華奢なことが分かる。
(女って、なんか、柔らかいな…)
「口開けて…」
口の中に入ってくる舌が、歯の裏や舌を愛撫する。
何が起こっているのか分からないが、流されるままにすずめは馬村の唇を受け入れた。
「はぁ…ん…っ」
手に持ったオニギリのことも忘れて、馬村のシャツに縋り付いた。
「っ、…はぁ」
頬は赤く染まり、トロンとした目で見つめてくるすずめの色気に、思わず唾を飲み込んでしまう。
「もう1回していい?」
馬村にそう聞かれ本当は少し名残惜しく思っていたが、理性の方が勝りストップをかけた。
「…ダメ」
一応聞きはしたが、まさか断られるとは思っていなかった馬村が固まる。
すずめは、馬村のシャツを掴んだまま、顔を胸に埋めた。
「だって…気持ちいいけど…なんか止まらなくなりそう…ちょっと、怖いし」
馬村はすずめを強く抱き締めると、額や頬に優しくキスをする。
「気持ちいいなら、止まらなくなってもいいだろ」
そう言って、また深く口付けてくる。
「ん…っ、あ…はぁ、ダメ…」
気が付いた時には、床に押し倒されていた。
馬村のことは、大好きだけど、急に男になった馬村にすずめの気持ちがついていかなかった。
「大地…帰って…っ、来るでしょ…ん、はぁ」
「じゃあ、帰ってくるまで…な」
スカートを捲り上げ太ももに手を置かれると、気持ちよさよりも恐怖が勝る。
「ふっ…ぅ、んっ、やぁ…だっ」
強く抱き締められている為、身動きが出来ない。すずめは悲しくなってきて、泣きながら顔を背けた。
「な、に…泣いて…」
「やだ、って言った…」
ハッとして、抱き締めていたすずめの身体を解放する。
「…ごめん、急ぎすぎた」
馬村としても、すずめのことが大事で泣かせたくなんかないのに、止まらなかった。
「今日は、帰るね…」
「送る」
「いいよ…まだそんなに遅くないし。また明日ね」
すずめは逃げるように、馬村の家を後にした。
「やべぇな…俺」
馬村は、部屋で1人自己嫌悪に陥る。
すずめは家に帰ると、ただいまも言わずに部屋に入り、布団に包まって考える。
キス以上の行為もいつかはするんだろう、と。
でも、何ヶ月か前まで先生のことが好きで、やっと馬村のことを好きだと気がついたばかりなのだ。
付き合う前に、1度手を繋いで、今日は2度目だった。
何度も抱き締められたかは覚えていないが、ギュッとされるのは好きだと思う。
そして、沖縄で初めてキスをした。
キスだって数えるほどしかしていない。
すずめは、正直馬村と一緒に居られればそれが幸せで、Hなことをしたいという気持ちは感じたことがなかったために、余計に戸惑いは大きかったのかもしれない。
すずめは思い出して、涙を浮かべる。
「馬村のバカ…」
諭吉は、帰ってくるなり自室に引きこもって、夕飯も食べようとしないすずめのことを案じていた。
帰ってきた時、泣いていたようで、目も赤く少し腫れていたからだ。
(学校で何かあったのか…?)
こんな時は、以前のままの関係であったのならば、獅子尾に相談していたのだが、さすがにすずめのことを今は相談する気にはなれない。
すずめ高校2年生、沖縄の後のお話。
学校の帰りに馬村のうちに寄り道。
だけど、馬村の男の部分を受け入れることができなくて…。
夏休みも終わり、高校2年生の2学期が始まった。
今年の夏は本当に色々なことがあり、泣いたり笑ったりして、振り返れば結局、笑って思い出せる日がいつか来るだろうとすずめは思うことにしている。
だから、馬村にも、もしかしたら先生のこと思い出して切なくなったり、似た人を目で追ってしまったり、そんなことはこれからもあるかもしれない、でもそれは思い出を振り返っているだけ、馬村への気持ちは変わらないから、不安に思わないでほしいと話をしたばかりだ。
学校の帰り道、まだまだ2人きりで帰ることに慣れないが、先生と一緒にいた時のような不安な気持ちを感じることは全くなく、何度も好きだと言葉で伝えてくれた馬村のことを好きになって良かったと日々思う。
すずめの胸元には、沖縄土産で、馬村からもらったネックレスが光っている。
「それ、してんだな」
馬村が、首元を指差して何でもないことのように言うが、心なしか嬉しそうに見える。
「うん。こういうのしたことないから、嬉しかったし…」
表情の少ない馬村が、恥ずかしそうな嬉しそうな顔をする、好きな人が喜んでくれることがこんなにも嬉しいことだと教えてくれた。
「あのさ、これから…うち来るか?」
顔を赤らめて目を見ずに誘ってくる馬村に、すずめは馬村の手を取るとキュッと握る。
「うん、行く」
2人とも会話も出来ないまま、手を繋いで家まで歩く。
顔が熱い…。
「お邪魔しまーす。あれ?大地まだ帰ってないの?」
「…みたいだな。そのうち帰って来るだろ、先に俺の部屋行ってて」
すずめは、しんとした部屋に入ると、急に緊張して、持っていたカバンの紐をギューギュー掴んでしまう。
前に来た時には父も大地もいた。
うちに遊びに来た時にはおじさんもいた。
2人っきりは、沖縄の水族館以来で、しかも部屋に…というのは初めてかもしれない。
考えれば考えるほど緊張が増し、どうしょうもなくなってしまった。
自分でも顔が熱くなるのが分かる。
とりあえず落ち着こうと、ベッドの横に腰を下ろし、鞄からオニギリを取り出して食べる。
お腹も空いていたし、ちょうどよかったとすずめは思った。
「おま…なに食ってんの」
「ん?オニギリ…お腹減ったから。馬村も食べる?」
「いらね…」
馬村が部屋に入ると、ちょうどすずめがオニギリにかじりついたところだった。
彼女を家に呼んだことで、多少なりとも緊張していた馬村はガクッと肩を落とした。
(色気なさすぎだろ…)
まあそんなもんかと、少しばかりしていた期待を打ち消した。
こうして2人で居られることが、奇跡のようなものなのだから。
「ほら、お茶…」
「ありがとう」
口いっぱいに頬張りむせそうになったすずめに、持ってきたばかりのお茶を渡し、すずめのすぐ横に座った。
「おまえ、手にも顔にも米付いてるすぞ…」
口のすぐ横に付いていた米粒を取ろうと手を伸ばすと、かなり近くにお互いの顔があることに気がつく。
顔に触れられたことで、馬村以上に驚いて真っ赤になるすずめに、一応意識してくれてたのかと嬉しくなった。
「やっぱり、食う…」
すずめの頬に付いた米粒を、舌で舐め取り、手についた米も指ごと口に含む。
「味、わかんねぇな」
何が起こったのかも分からず、涙目で顔を赤くするすずめに、何も考えさせないようにとすぐ行動を起こした。
すずめが持っているオニギリを口に含むと、口移しですずめに食べさせた。
「ふっ…ん〜、な…に」
「うまい?」
「…っ、味なんか分かんないよっ〜」
「じゃあ、お茶いる?」
すずめの肩を抱いて、お茶をまた口移しされると、飲み込みきれなかったお茶が、口の端から零れ落ちる。
「んっ…はぁ…ま、むら…」
今にも涙が溢れそうなほど目は潤み、馬村の制服のシャツを掴む手は、やはり女の子のもので、抱きしめてみると意外なほど華奢なことが分かる。
(女って、なんか、柔らかいな…)
「口開けて…」
口の中に入ってくる舌が、歯の裏や舌を愛撫する。
何が起こっているのか分からないが、流されるままにすずめは馬村の唇を受け入れた。
「はぁ…ん…っ」
手に持ったオニギリのことも忘れて、馬村のシャツに縋り付いた。
「っ、…はぁ」
頬は赤く染まり、トロンとした目で見つめてくるすずめの色気に、思わず唾を飲み込んでしまう。
「もう1回していい?」
馬村にそう聞かれ本当は少し名残惜しく思っていたが、理性の方が勝りストップをかけた。
「…ダメ」
一応聞きはしたが、まさか断られるとは思っていなかった馬村が固まる。
すずめは、馬村のシャツを掴んだまま、顔を胸に埋めた。
「だって…気持ちいいけど…なんか止まらなくなりそう…ちょっと、怖いし」
馬村はすずめを強く抱き締めると、額や頬に優しくキスをする。
「気持ちいいなら、止まらなくなってもいいだろ」
そう言って、また深く口付けてくる。
「ん…っ、あ…はぁ、ダメ…」
気が付いた時には、床に押し倒されていた。
馬村のことは、大好きだけど、急に男になった馬村にすずめの気持ちがついていかなかった。
「大地…帰って…っ、来るでしょ…ん、はぁ」
「じゃあ、帰ってくるまで…な」
スカートを捲り上げ太ももに手を置かれると、気持ちよさよりも恐怖が勝る。
「ふっ…ぅ、んっ、やぁ…だっ」
強く抱き締められている為、身動きが出来ない。すずめは悲しくなってきて、泣きながら顔を背けた。
「な、に…泣いて…」
「やだ、って言った…」
ハッとして、抱き締めていたすずめの身体を解放する。
「…ごめん、急ぎすぎた」
馬村としても、すずめのことが大事で泣かせたくなんかないのに、止まらなかった。
「今日は、帰るね…」
「送る」
「いいよ…まだそんなに遅くないし。また明日ね」
すずめは逃げるように、馬村の家を後にした。
「やべぇな…俺」
馬村は、部屋で1人自己嫌悪に陥る。
すずめは家に帰ると、ただいまも言わずに部屋に入り、布団に包まって考える。
キス以上の行為もいつかはするんだろう、と。
でも、何ヶ月か前まで先生のことが好きで、やっと馬村のことを好きだと気がついたばかりなのだ。
付き合う前に、1度手を繋いで、今日は2度目だった。
何度も抱き締められたかは覚えていないが、ギュッとされるのは好きだと思う。
そして、沖縄で初めてキスをした。
キスだって数えるほどしかしていない。
すずめは、正直馬村と一緒に居られればそれが幸せで、Hなことをしたいという気持ちは感じたことがなかったために、余計に戸惑いは大きかったのかもしれない。
すずめは思い出して、涙を浮かべる。
「馬村のバカ…」
諭吉は、帰ってくるなり自室に引きこもって、夕飯も食べようとしないすずめのことを案じていた。
帰ってきた時、泣いていたようで、目も赤く少し腫れていたからだ。
(学校で何かあったのか…?)
こんな時は、以前のままの関係であったのならば、獅子尾に相談していたのだが、さすがにすずめのことを今は相談する気にはなれない。