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真面目な話をしよう

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「雷蔵になりたい」
 それは、私からすれば人生の一世一代の告白のような科白だった。
「僕に、だって?」
 私の告白に、雷蔵は眉と口を小さく曲げて応えた。
「やめた方がいいよ。僕になったって得な事なんて何もありゃしない」
 ともすれば冷やかに笑って、自分を卑しめる言葉を吐く。
 雷蔵はわかっていない。私の告白がどんな意味を持つのかを。望めば誰の顔にだってなれる私が、千の内の唯一に安定を望む勇気を、わかってくれない。
「君は、優秀な人間だろう。絶対に誤った選択をしてはいけないよ」
 否、理解する気もないのだ。それこそ、「そんなものを知って何になる」とでも罵りそうな口。咄嗟に、私は怒りではない、それよりももっと冷静な何かで、逃げるように背を見せようとするその肩を引いていた。雷蔵の抵抗するような反動を押し殺し、その場に繋ぎ止める。骨の形を学ぶように回る私の指に、雷蔵の足は動かなかった。目が、今日初めて互いに焦点を結ぶ。その目から、雷蔵が私を試しているような、そんな考えまで現れて、私は兼ねてからの切願をいつの間にか口にしていたのだった。
「ひとつだけ、いい事がある」
 私が雷蔵になれたら。
「雷蔵の代わりに、雷蔵を愛してあげられる」
 言うと雷蔵は悲しそうに目を伏せ、額から鼻にかけてを影で覆って、後。
「馬鹿だなあ、それじゃあ『不破雷蔵』にはなれないよ」
 私の指先を、静かな言葉で否定した。

(真面目な話をしよう)
作品名:真面目な話をしよう 作家名:pima